日向家の諸事情ですが。





『うわぁぁん…っ』


『…なに泣いてるの』


『っ、ころんだ…っ、いたいぃぃ…っ』



三男ってある意味、いちばん影が薄いんだ。

兄たちがいれば安心だろうっていつも手を抜かれるし、使用人や母は泣き虫で甘えん坊な末っ子を常に気にかけるから。


でも、そこで泣いていたおれに気づいて声をかけてくれたのは……いつだって女の子の格好をした兄だった。



『…ころんだくらいで泣くなよ』


『だっ、だってぇ…っ』


『フウ。おまえは……男なんだから』



切なそうに言って、泣いているおれの腕を引っぱって立ち上がらせて、メイドに見つかる前にそそくさと離れていく。



『にっ…、………、』



────兄ちゃん。


って、本当は呼びたかった。
いつもいつもそう呼びたかったんだ。

“ハナちゃん”なんて、せめて馴れ馴れしさを出そうとした呼び名を勝手に付けてさ。


馬鹿だおれ。


兄ちゃんは、優しくてかっこいいおれの自慢の兄ちゃんだよ。



「……兄ちゃん」



そう───今でさえ伝えられなかったことが悔しい。