日向家の諸事情ですが。





「もうっ…!走りづらい…っ」



けれど屋敷を出てすぐ、わたしは躓いて地べたに転んでしまった。


こんな格好、走りたくとも走れないよ。

スカートなんか短く切ってやる…っ。



「もう……っ」



どうしようもなさに、炎天下の下、自分の影へと涙が落ちそうになったとき。



「大丈夫ですか?」



横を通りかかった見慣れない高級車の後部座席、窓が開いたところから声をかけられる。


甲高く、花のような声をしていて、ふわりとローズの香りまで届いてくるもんだから。

ここはお花畑かよ…と、脳内で悲しい冗談さえ浮かんでしまった。



「熱中症で倒れてしまわれたのかもしれないわ。磯山(いそやま)、彼女を介抱してあげて」


「かしこまりました」



すると運転席から出てきた黒ずくめ。

テイルコートに蝶ネクタイ、それはメイドのわたしと類似した業種だとすぐに分かった。