「あに……、……しき、さま」
何度、何度と聞かされ続けてきた名前だった。
幼い頃から周りにいた人間全員が、俺ではなくそいつの名前を呼ぶ。
年子の長男と次男───、
たったそれだけの壁が、俺には人生を左右してくる方位磁石と地図だった。
ふたり弟がいるが、そいつらは可もなく不可もなく。
片方はどこへ行ったとしても上手くやれるだろうと思う世渡り上手、もう片方は昔から母なり使用人なりに甘えて育った甘ったれの末っ子。
「……ろーれ…、おさ……ぽ…」
よかったな、俺がいて。
おまえひとりだったらパニックでもっと大げさな大事になってただろうよ。
そっと首に手を伸ばそうとしたところで、俺はふと、あるものに気づく。
「………、」
細い首から胸元にかけてぶら下がった、琥珀色をしたペンダント。
そういえば日中も外すことなく付けていたか。
そこまで安くはない代物に見えるが、この女が身に付けていることがどこか似合わないアクセサリーだった。



