日向家の諸事情ですが。





『おれっ、俺…、もうこんなのやだよ……っ』



普通になりたい。
普通に戻りたいだけ。


髪を切って、ズボンを履いて、あるがままに。

生まれ落ちた性別で堂々と生きたいだけなんだ。

他はもう、なにも望まないから。
ぜんぶ兄にあげるから。


俺はもう………それだけで十分だから。



『葉奈。おまえはこれからもメイドの言うことを聞いていればいい』


『────……』



どうして、なんで、なぜ……?

親であるあなたが、なんで助けてくれないんだよ。


それは必ず守ってくれると信じていた存在に裏切られた瞬間。



『彼女を喜ばせられるのはおまえしかいないんだ……葉奈』



すがってくるような言葉だった。

たのむ、頼む、と、なにを頼まれているかも理解していないなか。


のちに分かる。


すでに関係はあったのだ。

あのメイドと父のあいだに、子どもが入る余地もない醜い欲望が。