『大丈夫、だいじょうぶ。葉奈お嬢様はね、かわいい子。だれよりも可愛い子なのです』
『…いちばん?』
『当たり前です。…ふふ、みんなには内緒ですよ?』
『………うん』
抱きしめられた腕のなかだけは本物だと、子どもは信じてしまう。
本当の母は病弱で、弟たちの世話さえまともにできない女だ。
長男は跡取り息子として使用人たちからも父親からも可愛がられて育っている。
小さな弟たちは自分の存在さえ、きっとよく分かっていないだろう。
兄なのか姉なのか、それさえも。
『あ……、ツバキちゃんだ…』
ちょうど屋敷の窓から覗いた中庭に、たまに遊びにくる女の子の姿を見つけて。
専属メイドの目を盗むように外へ飛び出した、11歳の春。
あの子とずっと話してみたかった。
いつも兄である識とばかり楽しそうにしていて、羨ましかった。
けれどそのとき、すっかり忘れていたのだ。
物心ついてから今になるまで、ずっと当たり前のように着飾られ続けていた自分の姿を。



