死にゆく私は、桜の世界で二度と散らない恋をした。

「いただきます」
​ 声を揃えて、自分たちで作ったお菓子を口に運ぶ。
 「⋯⋯うまっ。これ、本当に僕たちが作ったの?」
 「奏斗が混ぜるの頑張ったからだよ。クッキーも、サクサクで美味しい」
​ 笑い合いながら食べるお菓子は、今まで食べたどんな高級なスイーツよりも、深く、温かい味がした。
 けれど、ふとした瞬間に、お互いの体から漏れ出す「桜の香り」が鼻をかすめる。
 
 奏斗の手首に見える、点滴のあと。
 私の胸を時折襲う、鈍い痛み。
 それらは消えてはくれないけれど、今の私たちは、それを隠すための香水も嘘も持っていない。
 剥き出しの命で、剥き出しの想いを分かち合っている。
​ 「⋯⋯ねえ、奏斗」
 「ん?」
 「⋯⋯来年もさ、またこうしてお菓子、作りたいな」
​ 言ってから、少しだけ胸が痛んだ。
 来年なんて、今の私たちには贅沢すぎる言葉かもしれない。
 けれど、奏斗は私の目を真っ直ぐに見つめ、力強く頷いた。
​ 「⋯⋯ああ。作ろう。今度はもっと難しいやつ。マカロンとか、パイとかさ」
 「ふふ、奏斗、絶対失敗しそう」
 「言うね。その時は咲菜が手伝ってよ。⋯⋯約束だぞ」
​ 奏斗が差し出した小指に、私の小指を絡める。
 調理実習室に満ちたイチゴとチョコの香りは、夕暮れの光に溶けて、私たちの記憶の深い場所に刻まれていった。
​ 私たちは、最後の一口までゆっくりと、噛みしめるように味わった。
 この甘い痛みが、いつか散ってしまう運命だとしても。
 今、この瞬間、私たちは確かに「二人」で、ここに生きていた。