どれくらい、彼の腕の中で泣いていたんだろう。
先輩の制服の胸元を私の涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしてしまったことに気づいて、私はようやく顔を上げた。
「⋯⋯すみません。先輩の服、汚れちゃいました」
「いいよ、そんなの。それより、少しはスッキリした?」
先輩は、泣き腫らした私の目を覗き込んで、困ったように笑った。
私は鼻をすすりながら、小さく頷く。
一人で抱えていた時は、出口のない真っ暗なトンネルの中にいるみたいだったけれど。
彼に話しただけで、世界がほんの少しだけ息を吹き返したような気がした。
「⋯⋯ごめんなさい。せっかくの文化祭だったのに、私、最悪ですよね」
「何が。僕は、咲菜ちゃんの本当の気持ちが聞けて、今日一番の収穫だと思ってるよ」
先輩はそう言うと、私の頬に残った涙を親指でそっと拭った。
その指先が、火傷しそうなくらい熱い。
私は気恥ずかしくなって視線を逸らそうとしたけれど、それより早く、先輩の顔が近づいてきた。
「⋯⋯っ?」
柔らかな感触が、私のこめかみに触れた。
ほんの一瞬、羽が触れるような、優しくて、大切にするようなキス。
「⋯⋯え?」
「大好きだよ、咲菜ちゃん。何があっても、僕が君を守るから」
心臓が、今日何度目かわからない爆発を起こした。
大好き。
「⋯⋯へっ!? な、ななな、何を⋯⋯!」
「え、聞こえなかった? じゃあ、もう一回」
先輩は少しも動じることなく、今度は正面から私の顔を包み込むようにして、さらに顔を近づけてくる。
長い睫毛と、あの強い香水の香りが迫ってきて、私は慌てて彼の胸を両手で突き放した。
「ばっ、もういいです! 変態! 先輩、本当に変態すぎます!」
「あはは! 戻った戻った。やっぱり、いつも通りの咲菜ちゃんが一番可愛いな」
先輩はケラケラと声を上げて笑い、先ほどまでの沈痛な面持ちをどこかへ飛ばしてしまった。
私の顔は、打ち上がった花火よりも真っ赤になっているだろう。
「さ、帰ろうか。風が冷たくなってきたし、これ以上泣くと明日、目がパンパンになっちゃうよ」
彼は私の手を力強く握り、階段へと導く。

