学校に着くと、そこはもう非日常の塊だった。
校門には色とりどりのアーチが組まれ、吹奏楽部の演奏が遠くから響いてくる。
私は自分の役割を果たすべく、本部のテントへと向かった。
「あ、小倉さん! ちょうどよかった。これ、配ってきて!」
「えっ、あ、はい⋯⋯わっ」
手渡されたのは、ずっしりと重いパンフレットの束だった。
一クラス分どころじゃない、数百枚はありそうなその量は、私の細い腕にはあまりにも荷が重い。
おっとっと、とよろめいたその瞬間。
「危ないって」
あの香水の香りが私を包み込んだ。
横から伸びてきた大きな手が、私の腕からパンフレットの半分以上を、軽々と奪い去っていく。
「⋯⋯瀬口、先輩」
「おはよ、咲菜ちゃん。約束通り、手伝いに来たよ。はい、これ半分持つから」
先輩が隣に並んだ瞬間、周囲の空気が一変した。
「きゃー! 見て、瀬口先輩じゃない!?」
「えっ、一緒にパンフ配ってるの!? あの子誰!?」
一瞬にして、私たちは女子生徒たちの波に飲み込まれた。
「先輩、これ一部ください!」
「あ、私も!」
先輩が笑ってパンフレットを手渡すたびに、黄色い歓声が上がる。
どんどんと、女子たちが列をなしていく。
おかげで、あんなに重かったパンフレットは、ものの数十分で綺麗になくなってしまった。
「⋯⋯あ、なくなっちゃった」
「ははっ、早いね。じゃあ、僕はちょっと変装してくるから。咲菜ちゃん、次はカフェだっけ?」
「え、あ、はい。そうですけど⋯⋯」
先輩はひらひらと手を振って、人混みの中に消えていった。
残されたのは、空っぽになった私の両手と、少しだけ鼻に残る香水の残り香だけ。
⋯⋯なんだか、寂しい。⋯⋯いや、寂しくないし! せいせいするし!
私は頬を膨らませて、一人で二組の教室へと向かった。

