文化祭当日の朝。
私は鏡の前で、かれこれ三十分も格闘していた。
ただの制服。
ただの学校行事。
それなのに、髪を耳にかけるか、それとも少し巻いてみるか、そんな些細なことで手が止まってしまう。
「⋯⋯いや、デートじゃないし。ただのパンフレット配りだし」
自分に言い聞かせながら、櫛を置く。
でも、心臓の奥にある蕾が、私の動揺に合わせるようにトクン、と熱を帯びる。
昨日の屋上での約束。鈴の悪戯っぽい目。そして、あの強引な先輩の笑顔。
「よし、普通が一番。⋯⋯普通に、行こう」
結局、いつも通りの髪がに落ち着いた。
玄関を出ると、秋の澄んだ空気が肺を満たした。
病気の宣告を受けてから、初めて「生きていてよかった」と思えるような、そんな特別な朝の匂いがした。

