死にゆく私は、桜の世界で二度と散らない恋をした。



​空の色が、あまりにも残酷なほどに青かった。

八月の末。
ようやく、長く居座っていた梅雨の湿り気を追い出すように、激しい日差しがアスファルトを焼き始めた。


梅雨明けを知らせる入道雲が遠くに湧き上がり、街全体が夏の終わりを惜しむような、狂おしい熱気に包まれている。


けれど、私の胸の中だけは、冷たい霧が立ち込めているようだった。


数日前から感じていた、肺の奥を小さな棘でつつかれるような、微かな息苦しさ。


「⋯⋯咲菜、やっぱり一度、大きな病院で診てもらいましょう。お母さん、予約取ったから」


母のその言葉に抗う元気もなくて、私はただ、生温い風に吹かれながら頷くことしかできなかった。


病院へ向かう車の中、エアコンの冷気が無機質に肌を叩く。
カチカチと刻まれるウィンカーの音が、まるで私の命の秒針のように聞こえて、私は思わず自分の胸を強く押さえた。


「大丈夫?苦しい?」


「⋯⋯ううん。ちょっと、ドキドキしてるだけ」


​嘘だった。
ドキドキなんて可愛らしいものじゃない。


思春期にはよくあることなのだろうか。
成長の過程で心臓がチクチクする⋯⋯みたいな。


いや、恋じゃないんだからそういうのないでしょ。
というか、物理的な痛さだし⋯⋯。