「はい、これ。咲菜ちゃんの分」
屋上のフェンスに囲まれた特等席。
瀬口先輩がビニール袋から取り出したのは、少し潰れたイチゴジャムパンと、冷えたミルクティーだった。
「⋯⋯先輩、この屋上の鍵。どうしたんですか?」
私はミルクティーを飲みながら、ずっと気になっていた質問を投げかけた。
立ち入り禁止のはずのこの場所を、彼は自分の部屋のように使いこなしている。
最初は気づかなかったけれど、屋上は一般生徒は簡単には立ち入れないらしい。
「あー、これ?ここの管理人は僕だから。ほら」
彼は指先で、年季の入った銀色の鍵をくるくると回した。
「廊下で先生が落としたのを拾った⋯⋯っていうのは冗談で、実はここの先生に無くしたふりをして貸してもらったんだ。転校生への特別サービスってやつ?」
そんなわけない、と私は苦笑したけれど、彼の嘘はいつもどこか憎めない。
私たちはコンクリートの床に座り込み、トランプを広げた。
「よし、次はスピードね。負けた方は、一つ言うこと聞くこと」
「えっ、聞いてませんよそんなの!」
「今決めた。さあ、行くよ。⋯⋯せーの!」
病気のこと、死ぬこと、親への不安。
ここ数日、私の頭を支配していた真っ暗な思考が、彼の出すカードの速さに追いつけなくて、どんどん後ろへ追いやられていく。
「あ、また負けた⋯⋯。先輩、早すぎます」
「咲菜ちゃんが遅すぎるんだよ。はい、罰ゲームね。⋯⋯って言いたいけど、今日は特別に免除してあげる。その代わり、少し休みなよ。眠そうな顔してる」
彼の優しい声に、張り詰めていた緊張がふっと解けた。
昨夜はまともに眠れていなかった。
でも、彼と過ごすこの場所には、あの香りと、微かな日向の匂いが混じり合っていて、不思議と安心できた。
私はいつのまにか、膝を抱えるようにして、そっと目を閉じた。
遠くで聞こえるチャイムの音が、心地よい子守唄のように響いていた。

