二時間目の休み時間。教室はいつも通りの喧騒に包まれていた。
私は机に突っ伏して、心臓の奥で微かに疼く蕾の気配を無視しようと必死だった。
昨日の屋上での出来事は、まるで悪い夢か、あるいは現実味のない白昼夢のようで⋯⋯。
「ねえ、見て!あれ、噂の瀬口先輩じゃない!?」
「えっ、本当だ!かっこいい⋯⋯。なんで二組に来てるの?」
教室の前方が騒がしくなった。
女子たちの黄色い歓声が上がり、視線が一箇所に集中する。
顔を上げると、そこにはあの強い香水の香りを纏った瀬口先輩が、教室の入り口に堂々と立っていた。
「あ、見ーつけた。おはよ、咲菜ちゃん」
彼は迷いのない足取りで私の席まで歩いてくると、屈託のない笑顔を向けた。
クラス中の視線が、一斉に私に突き刺さる。
昨日まで、空気のように過ごしていた私の日常が、音を立てて崩れていくのがわかった。
⋯⋯友達いないって、言ってたのは嘘でしょうかねぇ⋯⋯?
私は心の中で毒づきながら、顔を伏せたい衝動に駆られた。
「な、何してるんですか⋯⋯。みんな見てるじゃないですか」
「いいじゃん。ちょっとお迎えに来ただけ。ほら、行こ?」
「えっ、ちょっ⋯⋯!?」
彼は私の返事も待たず、手首を軽く掴んで強引に立たせた。
ビクッ、と肩が跳ねる。
女子たちの痛いほどの視線を背中に浴びながら、私は嵐に巻き込まれた小舟のように、彼に引きずられて教室を後にした。

