そこには、遮るもののない真っ青な空と、どこまでも続く淡い桜色の地平線が広がっていた。
風は冬の鋭さを失い、ただただ優しく、陽だまりのような温かさで私の頬を撫でていく。
ふわり、と髪が揺れる。
私は、その大きな一本の桜の木の下に立っていた。
今の私を包んでいるのは、ただ、純粋で透明な「生」の気配。
見上げれば、満開の桜が、見たこともないほど鮮やかな色彩で空を埋め尽くしている。
ひらひらと舞い落ちる花びらは、まるで祝福の雪のようで。
私は、ずっと待っていた。
この場所で、私が世界で一番会いたかった、あの人が来るのを。
「⋯⋯遅いよ。待ちくたびれちゃった」
振り返ると、そこにはあの日と同じ、少し乱れた髪と、優しすぎる眼差しをした彼が立っていた。
その瞳には、どんなレンズよりも鮮明に、私だけの姿が映し出されている。
彼は、困ったように眉を下げて笑った。
私の大好きな笑顔。
「ごめん。⋯⋯ちょっと、最後に伝えたいことが多すぎて、長引いちゃった」
彼が歩み寄るたびに、足元の芝生がさらさらと音を立てる。
その体からは、もうあの強い香水の匂いはしない。
ただ、私と同じ、穏やかな春の香りがした。
彼は私の前に立つと、私の震える手を、あの時よりもずっと力強く、温かく包み込んだ。
私たちは、満開の桜の木の下で、静かに額を寄せ合った。
「来年」の約束。
それは、叶うことはなかったけれど。
形を変え、時間を超え、私たちは今、本当の意味で永遠を手に入れた。
「大好きだよ。⋯⋯ずっと、ずっと愛してる」
彼が囁いた言葉が、花びらとともに風に乗って、溶けていく。
私も、溢れ出す涙をそのままに、彼の胸に顔を埋めた。
ここには、私たちの恋を殺す病気なんて存在しない。
ここには、私たちの明日を奪う季節の移ろいなんて存在しない。
私たちは、降り注ぐ桜の花吹雪の中で、二度と離れることのない指先を、固く、固く結び合わせた。
これは、絶望の果てに辿り着いた、最も美しくて残酷な、私たちのハッピーエンドだ。

