夏祭りの余韻に浸りながら、私は浜辺に立っていた。
夜空にはキラキラと星が輝いている。その数は、東京で見るよりもずっと多かった。
波の音も心地いい。聞いているだけで気分が落ち着いた。
潮風が吹いて髪が揺れたとき、ざくっと砂を踏む音が聞こえる。振り返ると、ヒサメくんがいた。
「お待たせ、クラゲ」
「ううん、私もさっき来たところだよ」
そう返事をすると、ヒサメくんは穏やかに微笑みながら私の隣に立った。
波の音だけが二人の間に流れる。話を切り出してくれるのを待ちながら整った横顔を見つめていると、不意に目が合った。
ヒサメくんは、かしこまったような表情で私を見つめる。
「俺さ、昔クラゲと会ったことがあるんだ。ジンベエザメだったときに」
「……え? うそ」
衝撃的な事実を聞かされて、息が止まりそうになる。
驚き過ぎて固まっている私に、ヒサメくんは落ち着いて説明してくれた。
「俺は普段、太陽の光が届く海面近くを泳いでいるんだけど、あの日はダイオウイカに会うために海底まで潜っていたんだ。そのときに、巨大な船を見つけて気になって近付いてみたんだ」
まさかそれって、私が乗っていた潜水艦のことじゃ……。
言葉も発することができずに固まっていると、ヒサメくんが続ける。
「船の中には、たくさんニンゲンが乗っていたけど、その中でもひと際、キラキラと目を輝かせている女の子がいたんだ。その姿がかわいくて、目が離せなくなった」
あのときは、ジンベエザメが潜水艦についてくるように、並んで泳いでいたっけ。
それって、私を見ていたってこと?
「浜辺でクラゲと会ったときも、あの子と似ているなって思ったけど、そんな偶然あるはずないって自分に言い聞かせていた。でも、潜水艦の話を聞いて、あれはクラゲだったんだって確信したんだ」
やっぱり、そうだったんだ……! 海で手を繋いで泳いだときも、一瞬だけあの時のジンベエザメの姿が頭に過ったけど、まさか本人だったなんて!
遥か遠くの海で出会ったジンベエザメと、こうして陸で再会できるなんて奇跡だ。感極まって、じわりと涙が滲んだ。
「あのときから、俺はニンゲンを好きになったんだよ。クラゲは、俺が初めて好きになったニンゲンだ」
ヒサメくんからの言葉で、胸の奥から熱いものが込み上げる。私は涙を拭って、真っすぐヒサメくんを見つめた。
「私も! あのときのジンベエザメを見て、海の生き物を好きになったの。だから、海の生き物ノートの1ページ目も、ジンベエザメで……」
話しているうちに、顔面に熱が集中していく。こんなのは告白と一緒だ。
ゆでダコのようになった私を見て、ヒサメくんは目を細めながら穏やかに微笑んだ。
「お互い、一目惚れだったんだね」
「うん。そうだね」
気恥ずかしさを感じながらも、うなずいた。
あのときのジンベエザメが隣にいるなんて、信じられない。
心臓は壊れそうなほどドキドキしているし、また泣き出してしまいそうなほど感情が昂っている。
本当のことを知れてよかった。
過去の記憶とつながったことで、いままで以上にヒサメくんのことを好きになれた気がした。
「クラゲ」
「は、はいっ!」
緊張のあまり、大声を出してしまった。ヒサメくんは、「ふふっ」とおかしそうに笑ったあと、ぴんと小指を立てた。
「これからも、海の生き物も、ニンゲンも、安心して暮らせる方法を一緒に探していこうね」
「もちろん! 約束する!」
小指を立てて、絡ませる。夏の海で、固い約束を交わした。
海と陸、住処はちがっても等しく生きている。
いつか大人になっても、ヒサメくんと交わした約束だけは、ずっとまもっていこうと心に決めた。
<おわり>
夜空にはキラキラと星が輝いている。その数は、東京で見るよりもずっと多かった。
波の音も心地いい。聞いているだけで気分が落ち着いた。
潮風が吹いて髪が揺れたとき、ざくっと砂を踏む音が聞こえる。振り返ると、ヒサメくんがいた。
「お待たせ、クラゲ」
「ううん、私もさっき来たところだよ」
そう返事をすると、ヒサメくんは穏やかに微笑みながら私の隣に立った。
波の音だけが二人の間に流れる。話を切り出してくれるのを待ちながら整った横顔を見つめていると、不意に目が合った。
ヒサメくんは、かしこまったような表情で私を見つめる。
「俺さ、昔クラゲと会ったことがあるんだ。ジンベエザメだったときに」
「……え? うそ」
衝撃的な事実を聞かされて、息が止まりそうになる。
驚き過ぎて固まっている私に、ヒサメくんは落ち着いて説明してくれた。
「俺は普段、太陽の光が届く海面近くを泳いでいるんだけど、あの日はダイオウイカに会うために海底まで潜っていたんだ。そのときに、巨大な船を見つけて気になって近付いてみたんだ」
まさかそれって、私が乗っていた潜水艦のことじゃ……。
言葉も発することができずに固まっていると、ヒサメくんが続ける。
「船の中には、たくさんニンゲンが乗っていたけど、その中でもひと際、キラキラと目を輝かせている女の子がいたんだ。その姿がかわいくて、目が離せなくなった」
あのときは、ジンベエザメが潜水艦についてくるように、並んで泳いでいたっけ。
それって、私を見ていたってこと?
「浜辺でクラゲと会ったときも、あの子と似ているなって思ったけど、そんな偶然あるはずないって自分に言い聞かせていた。でも、潜水艦の話を聞いて、あれはクラゲだったんだって確信したんだ」
やっぱり、そうだったんだ……! 海で手を繋いで泳いだときも、一瞬だけあの時のジンベエザメの姿が頭に過ったけど、まさか本人だったなんて!
遥か遠くの海で出会ったジンベエザメと、こうして陸で再会できるなんて奇跡だ。感極まって、じわりと涙が滲んだ。
「あのときから、俺はニンゲンを好きになったんだよ。クラゲは、俺が初めて好きになったニンゲンだ」
ヒサメくんからの言葉で、胸の奥から熱いものが込み上げる。私は涙を拭って、真っすぐヒサメくんを見つめた。
「私も! あのときのジンベエザメを見て、海の生き物を好きになったの。だから、海の生き物ノートの1ページ目も、ジンベエザメで……」
話しているうちに、顔面に熱が集中していく。こんなのは告白と一緒だ。
ゆでダコのようになった私を見て、ヒサメくんは目を細めながら穏やかに微笑んだ。
「お互い、一目惚れだったんだね」
「うん。そうだね」
気恥ずかしさを感じながらも、うなずいた。
あのときのジンベエザメが隣にいるなんて、信じられない。
心臓は壊れそうなほどドキドキしているし、また泣き出してしまいそうなほど感情が昂っている。
本当のことを知れてよかった。
過去の記憶とつながったことで、いままで以上にヒサメくんのことを好きになれた気がした。
「クラゲ」
「は、はいっ!」
緊張のあまり、大声を出してしまった。ヒサメくんは、「ふふっ」とおかしそうに笑ったあと、ぴんと小指を立てた。
「これからも、海の生き物も、ニンゲンも、安心して暮らせる方法を一緒に探していこうね」
「もちろん! 約束する!」
小指を立てて、絡ませる。夏の海で、固い約束を交わした。
海と陸、住処はちがっても等しく生きている。
いつか大人になっても、ヒサメくんと交わした約束だけは、ずっとまもっていこうと心に決めた。
<おわり>


