まもるよ! マリンフレンド

 朝、学校へ行くと、異様な空気を感じた。

「あ、あれ? ヒサメくんたち、どうしたの?」

 いつもは四人で窓側の席に固まっているヒサメくんたちが、分断されている。
 廊下側の席で冷たいオーラを放っている、ギンガくんと、シロカくん。
 窓側の席でぼんやり海を眺めている、ヒサメくんと、カナメくん。
 その間にはマリアナ海溝のような深い溝ができていた。クラスメイトも、どこかソワソワしている。

「おはよ、クラゲ」
「あ、おはよう。エイちゃん」
「留学生くんたち、まだケンカしてるみたいだね」

 私のもとにやって来たエイちゃんが、呆れ顔でため息をついている。
 ケンカって、この間のゴミ拾いが原因かな?
 詳しく話を聞きたくてギンガくんのほうを見るも、ヒヤッとした眼差しで睨まれる。
 ひぃ! こっちはムリだ。ヒサメくんに聞いてみよう!

「おはよう、ヒサメくん」

 窓側の席に近寄って声をかけると、海を眺めていたヒサメくんがゆっくり振り返る。

「ああ、おはよ。クラゲ……」

 その声は、いつもより元気がない。表情もどんより暗かった。

「ギンガくんたちと、まだギクシャクしてるの?」

 思い切って聞いてみると、ヒサメくんは言葉を濁すように苦笑いを浮かべる。
 すると、カナメくんが目を細めながら説明してくれた。

「ヒサメとギンガは~、昨日の夜にバチバチにやり合ってたからね~」
「それって、ホント?」

 私の知らない間にそんなことがあったなんて……。
 ヒサメくんは、沈んだ表情でため息をつく。

「ギンガに甘いって言われちゃったんだ。海の問題は、話し合いで解決できるような生易しい話じゃないって……」
「それって海洋汚染のことだよね?」
「うん。ギンガはあくまでも、ダイオウイカの作戦を優先させたいって」

 そこまで聞くと、ケンカの原因もみえてきた。
 ヒサメくんはニンゲンと海の生き物の共生を目指しているけど、ギンガくんは海を汚すニンゲンが消えることを望んでいるってことだよね。
 それぞれの考え方のちがいから、ケンカになってしまったのか。

「どうやったら、仲直りできるんだろう……?」

 ちがった考えを持っているのは仕方ないことだけど、仲間割れするのはよくないと思う。
 どうにか折り合いをつける方法はないものかと考えていると、エイちゃんが話に加わってきた。

「うちでは、仲直りしたい時には、家族で手巻き寿司をしているけど」
「え? 手巻き寿司? お刺身とか厚焼き玉子で、海苔巻きを作るやつだよね?」
「そうそう。私と兄さんがケンカしたときとか、パパとママがケンカしたときには、みんなで手巻き寿司を作るの。一緒に作って、食べているうちに、自然と仲直りできるんだよ。我が家のヘンな風習だね」

 エイちゃんは「あははー」と照れくさそうに笑っていた。
 手巻き寿司……。うん、悪くないかも!

「エイちゃん! いいこと教えてくれてありがとう」

 発案者のエイちゃんの手をガシッと握りしめる。それから、机から身を乗り出して、ヒサメくんに提案した。

「ヒサメくん、みんなでおさかなパーティーをしようよ!」

 ヒサメくんはキョトンと目を見開いている。

「おさかなパーティー?」
「うん。新鮮な魚介類を用意して、ごはんとのりで巻いて食べるの。みんなで美味しいものを食べれば、今のギクシャクした空気も元通りになるかも」

 ヒサメくんは、ちらっとギンガくんを見る。それから決心したようにうなずいた。

「俺もいつまでもギンガたちとギクシャクしているのは嫌だ。それで仲直りできるならやるよ」

 ヒサメくんは、賛成みたい。ほっと胸を撫でおろしていると、カナメくんがゆらゆらと揺れる。

「それなら~、僕たちの寮においでよ~」
「寮⁉」

 聞き慣れない言葉に反応すると、エイちゃんが説明してくれる。

「留学生には、学校の裏手にある学生寮を貸し出しているんだよ」
「へえ、そうなんだ」

 ニンゲンになったヒサメくんたちが、どこに住んでいるのかは謎だったけど、寮で暮らしていたんだ。
 だから、毎日髪も服もキレイな状態で登校していたんだね。納得。

「それじゃあ、場所は学生寮を使わせてもらおう。そうと決まれば、ギンガくんたちも誘ってくるよ」

 二人の関係を修復させるためにも、私が交渉役を引き受けよう。……怖いけど。
 ビクビクしながらも、ギンガくんの席に向かった。

「あ、あの、ギンガくん、シロカくん。今度、学生寮でおさかなパーティーをしようって話していたんだけど、よかったら一緒に……」

 笑顔を浮かべながら誘ってみたが、ギンガくんはツンとそっぽを向いてしまう。

「ニンゲンと慣れ合うつもりはない。……アイツともな」

 アイツっていうのは、ヒサメくんのことかな? ギンガくんは、ヒサメくんと仲直りするつもりはないってこと?
 早々に断られて困り果てていると、エイちゃんが涼し気な笑顔を浮かべながら近づいてくる。

「白浜市場の魚介類は、新鮮で美味しいんだけどね」
「……なんだと?」
「マグロも、サーモンも、エビも、イカも、すっごく美味しいんだけど、キミは食べないのか。ざーんねん」
「…………」

 あれ? ギンガくんが黙り込んじゃった。
 もしかして、魚で釣る作戦は効果ばつぐん?

「あの、ギンガくんの好きな魚も用意しようと思ってるけど、どうかな?」

 もう一度誘ってみたところで、シロカくんが「はいは~い!」と元気よく手を挙げる。

「僕は参加するよ! おっさかな、おっさかな~♪」

 小躍りしながら、はしゃぐシロカくん。よかった。シロカくんは参加してくれるみたい。

「うん、美味しいお魚用意するから」
「やったー! ギンガが来ないなら、僕が全部食べちゃうんもんね~」
「は? ふざけんな!」

 ガタッと椅子から立ち上がるギンガくん。みんなから注目が集まると、顔を赤らめて恥ずかしそうに椅子に座り直した。
 ギンガくんは頬杖をつきながら、ボソッと呟く。

「……まあ、アイツらだけだと心配だから、監視役として俺も参加してやってもいい」

 その言葉を聞いて、ほっと一安心。

「ありがとう、ギンガくん!」

 無事にメンバーが揃った。仲直りのための第一歩が踏み出せたね!



 おさかなパーティーは、土曜日のお昼に開催することに決まった。
 朝のうちに、私、ヒサメくん、エイちゃんで、市場に買い出しに行く。

「わー! 賑やかだね~」

 朝の市場は、大勢の人で賑わって、活気にあふれている。
 店先には、新鮮な魚介類がずらりと並んでいて、見ているだけでワクワクしてきた。
 どこからともなく、ホタテバターのいい香りも。じゅるり……。
 フラフラ~っと立ち寄りたくなったけど、今日は食べ歩き目的で来たわけじゃないから、ガマンガマン。

 エイちゃん行きつけの魚屋さんに着くと、さっそく注文をした。

「おじさん。マグロとサーモンとイカと甘エビちょうだい」
「はいよ! エイちゃんちは手巻き寿司かい? ま~た、パパとママがケンカしたんか?」

 気さくに話しかけてくる魚屋のおじさんに、エイちゃんは苦笑いを浮かべる。

「ううん、今日は友達と食べるんだよ。でも、ケンカしたってのは正解かな」
「ほーん、じゃあイクラもおまけしておくよ。イクラでもあやまるから、サケるのはやめて~。なーんつってな、がっはっは!」

 突然のおやじギャグで、ズッコケそうになった。だけど、おまけしてもらえるのは嬉しい。
 みんなで「ありがとうございます!」と、元気よくお礼を言った。

「袋はいるかい? 一枚5円だけど」
「エコバック持ってるので、大丈夫です」

 持参したエコバックを取り出して、おじさんに渡した。
 それをヒサメくんが興味深そうに見つめている。

「なんだ? その薄いバッグは?」
「エコバッグっていって、お買い物のときに使うものだよ。これを持っていれば、お店でビニール袋を貰わなくても済むから」
「なるほど。ゴミを出さないだけじゃなくて、ゴミになるものは貰わないってわけか。やっぱりクラゲはすごいな」
「うーん? 私に限った話じゃないと思うけど」

 ほら、市場で買い物をしている人に視線を向ける。その中には、エコバックをさげている人も大勢いた。

「おお、ホントだ。みんなエコバックを持っているんだな」

 まじまじと買い物客を見つめているヒサメくんの隣で、エイちゃんが微笑む。

「今はビニール袋も有料だからね。節約の意味でも使う人は増えたのかも。私も持ってるし」

 エイちゃんが取り出したのは、海底のイラストがプリントされたエコバッグだ。

「わあ! エイちゃんのエコバック、オシャレ!」
「ありがとう。クラゲのも可愛いじゃん。イルカとか、シャチとか、いろんな海の生き物がプリントされてるんだね」
「うん。雑貨屋でひと目見て、気に入って買ったんだよね~」

 エイちゃんから褒められると、気分が上がる。お気に入りのエコバックを持って、買い物する時間も、私は結構好きなんだよね。

「ゴミを出さない工夫をしているニンゲンも、大勢いるんだな」

 ヒサメくんは、感心したように市場の様子を眺めていた。



 魚屋で買い物を済ませたあとは、ヒサメくんの案内で学生寮に向かう。
 学校の裏手に回ると、二階建ての四角い建物が見えてきた。
 建物は古そうで、辺りはどんより薄暗くて、オバケが出て来そうな雰囲気があるけど……。

「ここが俺たちの住む学生寮だよ。さあ、入って、入って」

 ああ、やっぱりここなんだ。入るのはちょっと怖いけど……みんながいれば大丈夫だよね?

「お、おじゃまします!」

 ドキドキしながら、ヒサメくんに続いて玄関に向かった。
 ガチャリと重い扉を開けると――。

「え! すごい! リゾートホテルみたい!」

 オンボロな外観とはちがって、中はゴージャスだ。
 ロビーには、ふかふかのソファーと、ガラスのローテーブルがあるし、天井にはシャンデリアがつり下がっている。
 壁際には、色とりどりの魚が泳ぐ水槽に、観葉植物まで。ここって本当に学生寮?

「うそ。あのオンボロ学生寮が、こんなにキレイに……。いつの間に改修工事したんだろう?」

 エイちゃんも、豪華な内装を見て呆気に取られている。
 するとヒサメくんが、こそっと私に耳打ちした。

「ダイオウイカの魔法で、学生寮をキレイにしてもらったんだ」

 ええ⁉ と大声を出しそうになったのを、どうにか堪える。
 キレイにって言ったって、これはやりすぎじゃ……。
 入口で立ち尽くしていると、廊下の先からカナメくんと、シロカくんがやってきた。

「みんな~、いらっしゃい~」
「待ってたよ! 美味しいお魚ゲットできた? こっちも、白いごはんとのりを用意しておいたよ」

 そうだ。シロカくんたちには、手巻き寿司用のごはんと、のりを用意してもらっていたんだ。

「ありがとう! 新鮮な魚を買ってきたから、さっそく始めようか」
「やったー! おっさかな、おっさかな~♪」

 またしても小躍りするシロカくんに続いて、私たちは食堂に向かった。



 食堂の広いテーブルを囲んで、さっそく手巻き寿司作りが始まる。

「見ててね。ごはんを平らに広げて、具材を乗せたら、一気に巻き込むの」
「おお、鮮やかな手さばき!」

 エイちゃんの手元では、キレイな三角形の手巻き寿司ができた。おうちで何度もやっているだけあって手慣れている。

「私もやってみよう」

 教わった通りに、のりにごはんを薄く広げて、サーモンとイクラを乗せる。それから、くるくるっと巻いてみた。
 ……が、出来上がったのは不格好な手巻き寿司だった。

「うーん、結構難しいね」
「だなー……」

 ふと隣を見ると、同じく不格好な手巻き寿司を持っているヒサメくんがいる。失敗チームで「あははー」と顔を見合わせていた。
 そんな中、カナメくんが「できた~」と明るい声をあげる。

「見て~。委員長のと一緒~」

 ほのぼの笑っているカナメくんの手には、キレイに巻かれた手巻き寿司がある。

「すごい、カナメくん! 一回でキレイにできるなんて……」

 カナメくんって、実は天才肌だったりする?
 驚いていると、シロカくんが机に身を乗り出しながら、お刺身に手を伸ばしていた。

「僕はたくさんおさかなを入れるよ! アレも、コレも、ソレも……」

 白いごはんの上に、ぽんぽんと具材を乗せていくシロカくん。
 あーあ、そんなにたくさん乗せたら巻けなくなるんじゃ……。
 案の定、シロカくんの手巻き寿司は、のり一枚では巻ききれなかった。

「うわーん! これじゃあ、全然かわいくない!」

 ぱんぱんに太った海苔巻きを見て、シロカくんは嘆いていた。

 賑やかに手巻き寿司を作っていると、食堂のドアがギィと音を立てる。その先では、チラチラと影が動いていた。
 んん? もしかしてアレって……。
 作業を中断して、ドアのほうに近付くと、そこにはギンガくんがいた。

「あ、ギンガくん!」
「シッ! 声がでかい」

 ギンガくんは、慌てて口元に人差し指を添える。その声で、ヒサメくんが「どうした?」と駆け寄って来た。
 食堂の前で二人が鉢合わせると、バチンと火花が散る。

「ギンガ……」

 ヒサメくんは、気まずそうにギンガくんを見つめている。一方ギンガくんは、あからさまに敵対心を向けていた。
 ピリついた空気が流れる中、シロカくんがひょっこり顔を出す。

「そんなところで覗き見してるくらいなら、素直にこっちに来ればいいのにー」
「俺はただ、お前らがヘンなことをしでかさないか監視していただけで」
「そんなこと言って、おさかなは食べたいんでしょ?」

 シロカくんは、これ見よがしに皿に乗ったお刺身を見せる。
 それを見たギンガくんは、ごくりと喉を鳴らした。

「手伝いもせず、おさかなを食べたいなんて、ギンガは赤ちゃんだね」
「……なんだと?」
「だってそうじゃん。ママペンギンがエサを運んでくるのを待っているだけの、赤ちゃんペンギンと一緒~」

 シロカくんが笑いながらからかうと、ギンガくんの顔がみるみるうちに赤くなる。

「そこまで言われたら黙っていられねえ。俺もやる」

 そう宣言すると、ギンガくんは、ツカツカと食堂に踏み入った。
 ギンガくんも、参加してくれる気になったみたい! このチャンスを逃すわけにはいかない。

「ギンガくん、やり方は私たちが教えるから、一緒にやってみよう」

 そう誘ってみると、ギンガくんは不貞腐れたような顔をしながらもうなずいた。

「ああ、頼む」

 そこからエイちゃんと一緒にやり方を教えると、ギンガくんはすんなり巻き方をマスターしていた。

「わー! ギンガくんが作った手巻き寿司、美味しそう! 上手にできたね!」
「……やらないぞ?」
「大丈夫。私も自分で作ったやつあるし」

 ほらっと不格好な手巻き寿司を見せてみる。
 ギョッとした目で見ていたギンガくんだったが、しばらくするとプルプルと肩を震わせながら笑い出した。

「サーモンが……飛び出てる」

 あ、ギンガくんには、ウケたみたい。それならと、お皿に乗ったもう一つの不格好な手巻き寿司を指さした。

「こっちは、ヒサメくんが作った手巻き寿司」

 ギンガくんがお皿に視線を向けると、またしても笑い出す。

「あっちはエビが……飛び出てる」

 ギンガくんのリアクションを見て、ヒサメくんも「ぷっ」と噴き出す。その笑いが伝染するように、みんなも笑い出した。

 ついさっきまでのピリピリした空気はもうない。おさかなパーティーで仲直りする作戦は、成功かも!



「美味しかったねー」
「まんぷく、まんぷく~」

 みんなで作った手巻き寿司は、あっという間に完食した。
 お刺身はぷりぷりだったし、イクラはぷちっと弾けて、美味しかったぁ。
 満足感に浸っているなか、ヒサメくんが伏し目がちにため息をついた。

「みんなが安心して魚を食べられるのも、キレイな海があってこそなんだよな」

 その言葉で、ハッと思い出す。
 そういえば、図書室で借りた本にも、似たような話が書いてあったような……。
 鞄の中に入っていた本を取り出して、ページをめくる。『海と食の安全』という章に、詳しく書かれていた。

「これだ、マイクロプラスチック問題」

 みんながふっと顔を上げる。私は声に出しながら、本を読んでみた。

「マイクロプラスチックとは、大きさが5ミリ以下になった小さなプラスチックです。それらを海洋生物が食べることで体内に有害物質が蓄積し、その魚を人間が食べることで健康に悪影響を与えることも……」

 読んでいるだけで、ゾクッとしてくる。
 プラスチックゴミは自然には分解されにくいと、前に本でも読んだ。たとえ小さくなっても、海の中には存在し続けるってことだよね。
 話を聞いていたエイちゃんも、苦々しい表情を浮かべる。

「その話は私も聞いたことある。小さな魚がマイクロプラスチックを食べて、その魚を大きな魚が食べて~っていう食物連鎖を繰り返しているうちに、有害物質が体内で蓄積していくんだよね?」
「うん、そうみたい。本にも同じことが書かれている」

 海が汚れることで、海洋生物だけでなく、ニンゲンにまで悪影響が出てくるなんて……。
 恐ろしくなってしまったが、次のページには解決に向けた取り組みも書かれていた。

「企業では、マイクロプラスチックを含まない製品の開発も行われているみたい。個人でも、プラスチック製品の使用を減らすことで防げるんだって」
「それじゃあ、さっきの買い出しでクラゲがエコバックを使っていたのも、海のためになっていたんだな」

 ヒサメくんの言葉で、「あ!」と声を上げる。

「そうかも! きっとそうだよ!」

 海のなかに流れていってしまったマイクロプラスチックを、全部集めるようなことはできない。
 だけど日々の暮らしのなかで、余分なゴミを出さないようにすることは私でもできる。
 そうやって環境のことを考えた生活をすることで、海を守ることに繋がるのかも。
 希望が見えてきたところで、ここまで黙っていたギンガくんが本を指さした。

「その本、俺にも見せてくれないか?」
「あ、うん、どうぞ」

 本を差し出すと、ギンガくんはペラペラとページをめくって読み始めた。渋い顔をしていたり、ときどき驚いたように目を見開いたりしながら、真剣に読み込んでいた。
 しばらくすると、パタンと本を閉じた。

「ニンゲンは、海を汚すことしかしないと思っていたけど、海の安全を考えているやつもいるんだな」

 ボソッと呟くギンガくん。それを見て、ヒサメくんがキラッと目を輝かせた。

「そうだよ! ニンゲンは、俺たちが思っているよりずっと賢いんだ。海の問題について真剣に考えてくれている人も大勢いる。全員敵なわけじゃない」

 瞳や声色からも、ヒサメくんの真剣さが伝わってくる。ギンガくんは口を閉ざしながらも、その瞳をじっと見つめていた。
 そんな中、エイちゃんが「あのー」と遠慮がちに手を挙げる。

「ちょっと話が見えなくなってきたんだけど、クラゲと留学生くんたちは、海を守りたいってことでいい?」

 ……あ、エイちゃんは、ヒサメくんたちが海の生き物であることは知らないんだ。
 不審に思われないように、どうにか誤魔化さないと。

「そ、そうだよ。私は前にも言った通り、海の生き物が大好きだし、留学生くんたちも前の学校では海洋汚染のことを勉強してきたみたい。 ねっ?」

 話を合わせてね、という意味を込めてウインクをする。ヒサメくんは、すぐに察してくれた。

「海を守ることが、俺たちのミッションなんだ」
「なるほどね。だから海岸のゴミ拾いをしていたってことか……」

 納得してくれたかな? ドキドキしながらエイちゃんの反応をうかがう。
 エイちゃんは顎に手を添えながら考え込んだあと、澄んだ目で私を見つめた。

「それならいっそ、部活にしてみたらどうかな?」
「え? ブカツ⁉」

 エイちゃんから思いがけない提案をされて、目が点になる。

「そう、海を守るための部活。そうすれば、人も集めやすくなるし、活動範囲も広がると思うんだけど」

 部活にする。その発想はなかった。

「部活って、私でも作れるの?」
「うちの学校では、部員が6人以上集まって、顧問がつけば、部活として申請できるよ」
「部員6人か……」

 今、この場にいるのは6人だけど、みんなが参加してくれるかはわからない。
 とくに、ギンガくんと、シロカくんは活動に反対だったし……。
 みんなの顔を見回していると、ヒサメくんがサッと手を挙げる。

「俺は部活に入りたい」

 真っ先に入ってくれて、ドキッと胸が高鳴る。それに続くように、カナメくんと、エイちゃんも手を挙げた。

「僕も~」
「私も仲間も入れて」
「みんな……!」

 ジーンと胸が熱くなる。これでメンバーは4人になった。
 すると、シロカくんも「は~い」と挙手をする。

「しつもーん! 部活に入れば、またおさかなパーティーもできる?」
「うん、おさかなパーティーもまたやろうね」
「それなら僕も入る~」

 シロカくんは、おさかなパーティーで釣れた!
 あと一人集まれば、部活として申請できる。さりげなくギンガくんに視線を向けると、ぱちんと目が合った。

「あの、ギンガくんはどうかな?」

 恐る恐る聞いてみると、ギンガくんは無言のまま考え込む。しばらくしてから、口を開いた。

「……うまい魚も食わせてもらったし、数合わせに入ってやってもいい」
「ホント⁉」

 嬉しさのあまり、大声を出してしまう。するとギンガくんは、恥ずかしそうに目を逸らした。

「あくまで数合わせだ。期待はすんなよ」
「ねえ、知ってる? ギンガのそういうのツンデレっていうんだって」

 シロカくんがニマニマとあおると、ギンガくんは「うるせえ」と睨みつけた。
 これでメンバーは集まった。そこでエイちゃんが思い出したように「そうだ」と声を上げる。

「部活として申請するためには、部長を決めておく必要があるんだよね」

 部長か。しっかりもののエイちゃんがいいと思うけど。
 そう考えていたけど、みんなの視線は私に集まっている。
 ん? なんだろう、この空気。

「部長はクラゲがいいんじゃないかな」
「うん、私もクラゲが適任だと思う」

 ヒサメくんと、エイちゃんが、迷いなく私を推薦する。

「わ、私⁉」

 私なんかが部長でいいの? いままで班長とか委員長とか、『長』がつく役職にはなったことがないんだけど……。

「クラゲは留学生くんからも好かれているのが伝わってくるし、みんなを上手にまとめられると思うよ」

 それは、買い被りすぎでは? 本当に私でいいの?

「賛成~」
「クラゲちゃんがリーダーね!」

 カナメくんとシロカくんまで……。
 うーん……。他のリーダーはできる気がしないけど、海の生き物を守るためのリーダーなら引き受けてみたい、かも。

「わかった。私、部長になるよ」

 ドキドキしながら宣言すると、みんなの顔に笑顔が浮かんだ。

「決まりだね。よろしくね、クラゲ部長」

 ヒサメくんからにっこり微笑みかけられる。クラゲ部長なんて、照れちゃうな。

「ねえねえ、せっかくなら、アイドルみたいなグループ名をつけようよ!」

 シロカくんが元気いっぱいに提案すると、ヒサメくんが腕を組みながら考える。

「グループ名かぁ。……海を守るチーム、だとありきたりかな?」
「ヒサメはセンスなーい。もっとカッコいいのにしてよー」
「英語を使った名前なら、カッコよくなるかも。ちなみに海は英語でマリンで、守るはセーブだよ」

 エイちゃんから教えてもらったところで、私も考えてみる。

「マリン、セーブ……。海を守る仲間たちだから。マリンセーバーズとか?」

 試しにアイデアを出してみると、シロカくんがキランと瞳を輝かせる。

「クラゲちゃん、天才! 爽やか系のアイドルグループみたいでカッコいい~!」

 気に入ってもらえたみたい。ヒサメくんとエイちゃんも、うんうん、とうなずいている。

「いいね、マリンセーバーズ」
「私も賛成」

 グループ名も決まった。部活としてカタチになりつつある。
 最初はひとりだったけど、いまは仲間がいる。
 海の問題は壮大だけど、みんなで集まれば明るい未来に動き出しそうな気がした。
 胸を躍らせながら、私は拳を握る。

「マリンセーバーズ、結成だね!」