まもるよ! マリンフレンド

 翌日の早朝。体操着を着た私は、ゴミ袋を片手に海岸に立っていた。

「よし、ゴミ拾い、始めますか!」

 波の音だけが聞こえる静かな浜辺で気合を入れる。それから両手に軍手をはめた。

 昨日、図書室で借りた本を読んで、わかったことがある。
 海岸に捨てられたゴミが、雨や風で海へ流れ込んで、海洋汚染につながることがあるんだって。
 とくにプラスチックゴミは、自然には分解されにくく、何年も残り続けることもあるそう。

 海岸に落ちているゴミを放置していたら、海の中まで汚染してしまう。そうならないためにも、海岸のゴミ拾いをしようと決めた。
 だけど……。

「海岸って広すぎ~! これを一人でキレイにするなんてムリなんですけど~!」

 開始早々、心が折れかけていた。
 考えてみれば、そうだよね……。海岸って果てしなく広いもん。それを一人でキレイにするなんて無謀すぎる……。

 広い海岸に一人で立っていると、自分がアリんこ並みに小さい存在に思えてきた。
 おまけにゴミも多い。遠くから見た時はキレイだと思っていたけど、足元をじっくり見ながら歩いていると、かなりゴミが落ちていた。

「ペットボトルの蓋に、お菓子の袋に、プラスチックのフォーク。タバコの吸い殻に空き缶に……。あれなに? 懐中電灯? なんでこんなところに……」

 ゴミ袋は、あっという間にパンパンになってしまった。遠くにも、まだまだゴミは落ちている。

「キリがないよ、これ……」

 気が遠くなってくる。全部集めるのはムリそうだから、今日はできる範囲でキレイにしよう。



 ――キーンコーンカ―ンコーン。

 予鈴と同時に、私は教室に駆け込む。

「お、おはよう!」

 ギリギリセーフ。ほっとしながら額ににじんだ汗を拭っていると、窓際の席に座っていたヒサメくんがギョッと目を見開いた。

「クラゲ、どうしたの⁉ 遅刻ギリギリだし、制服じゃなくて体操着だし」

 ヒサメくんから指摘されると、じわじわと恥ずかしさがこみあげてくる。だらしないって思われちゃったかな?

「実は海岸のゴミ拾いをしてたんだけど、夢中で拾っていたら遅刻しそうになって」
「ゴミ拾いって、クラゲ一人で?」
「う、うん」

 ヒサメくんはまじまじと私の顔を見つめてくる。そんなに見られると恥ずかしいんだけど……。
 しばらくすると、ぽんっと肩に手を置かれた。

「そういう時は、俺も呼んでほしい」
「……え?」

 予想外の発言で、目が点になる。

「えっと、それって、ヒサメくんもゴミ拾いを手伝ってくれるってこと?」
「もちろん。海を守るためにも必要なことだから」

 まさかヒサメくんが、手伝いを申し出てくれるとは思わなかった。
 呆気に取られていると、ギンガくんたちも集まってくる。

「お前ら、なに騒いでるんだ?」
「クラゲちゃん、どうしたの? 服が汚れているよ?」
「なにか~、あった~?」

 みんなも体操着で登校した私のことが気になっているみたい。
 注目されてオロオロしていると、私に代わってヒサメくんが説明をしてくれた。

「今朝、クラゲは海岸のゴミ拾いをしてくれたんだ。一人だと大変だろうから、次は俺たちも協力しよう」

 みんなも手伝ってくれたら、すごく助かる!
 そう期待していたものの、ギンガくんと、シロカくんは、一斉に眉をひそめた。

「なんでニンゲンが出したゴミを、俺たちが拾わなければならないんだ? ニンゲンが拾うべきだろ?」
「ギンガの言う通りだよ。ゴミ拾いなんて、全然かわいくない!」

 冷ややかな眼差しのギンガくんに、むぅっと頬を膨らませるシロカくん。
 たしかに、ニンゲンが出したゴミなんだから、ニンゲンが拾うべきっていうのは当然かもしれない。
 だけど、ヒサメくんはめげずに説得を続けていた。

「海岸のゴミを拾えば、海にゴミが流れるのも防げる。それは仲間を守ることにも繋がるだろ」
「それを俺たちがやる必要があるのかって言ってんだ。ヒサメ、俺たちの目的を忘れたのか?」
「忘れてはいないけど」

 ギンガくんからギロリと睨まれると、ヒサメくんはゆっくりと視線を落とす。
 どうしよう。険悪なムードになってきちゃったかも……。

「寒冷チームVS温暖チームで~、ケンカ勃発~」

 カナメくんがのほほんとした口調で煽っている。
 もしかして、コウテイペンギンのギンガくんと、シロイルカのシロカくんは、寒い地域の海で暮らしているから寒冷チーム。
 ジンベエザメのヒサメくんと、アオウミガメのカナメくんは、暖かい地域の海で暮らしているから温暖チームってことなのかな?

 海の生き物の間で、派閥ができちゃったってこと? それはよくないような……。
 ヒヤヒヤしながら様子をうかがっていると、騒ぎを聞きつけたエイちゃんが駆け寄ってくる。

「みんな、なに揉めてるの?」
「あ、えっと、実はね……」

 すぐにエイちゃんにも事情を説明する。話を聞くと、「なるほどね」と腕組みしながらうなずいていた。

「海岸のゴミ拾いをしようって決めたクラゲはえらいと思うよ。一人で始めるなんて、なかなかできることじゃないもん」
「あ、ありがとう」

 エイちゃんに褒められると、ちょっと照れくさい気分になる。ゆるみそうになった頬を引き締めると、エイちゃんはきりっとした瞳でヒサメくんを見た。

「でもさ、そういうのって強制するものではないと思う。学校行事ならともかく、友だち同士で命令するのはちがうんじゃないか? ボランティアって、あくまで善意でやるものだし」

 エイちゃんの意見に乗っかるように、シロカくんが「そうだ、そうだぁ」と拳を突き上げていた。
 うん、エイちゃんの意見もわかる。強制するのは、よくないよね。
 ヒサメくんも、渋々うなずいた。

「……委員長の言う通りだね。ギンガたちがやりたくないなら、無理強いはしないよ」

 話がついたようで、ほっと胸を撫でおろす。
 ギンガくんたちは、「行こうぜ」と冷めたように席に戻っていった。
 私も席に戻ろうとしたところで、エイちゃんにちらりと横目で見つめられる。

「あのさ、私は協力したいと思っているから」
「え? なにを?」
「海岸のゴミ拾い。次にやる時があったら、私も呼んで」

 まさかエイちゃんも協力してくれるとは思わなかった。
 感動でジーンと胸が熱くなる。さすがは、海を愛する同志だ!

「ありがとう! エイちゃん!」

 お礼を伝えていると、カナメくんにくいくいっと体操着を引っ張られる。

「僕も協力するよ~」
「え? カナメくんも?」
「うん~。僕らにとっても、海のゴミは深刻な問題だから~」

 カナメくんも加わってくれれば、メンバーは四人になる。それは心強い。

「それじゃあ、次はみんなでゴミ拾いしようか!」

 元気よく宣言すると、三人は力強くうなずいた。



 よく晴れた日曜日の朝。私たちは、体操着で海岸に集合していた。

「みんな来てくれてありがとう! それじゃあ、ゴミ拾いを始めようか」
「「「はーい!」」」

 ヒサメくん、カナメくん、エイちゃんが返事をする。さっそく手分けして作業を始めた。
 黙々とゴミを拾っていると、少し離れた場所にいたヒサメくんから「おーい」と声をかけられる。

「クラゲ、これはなんだ?」
「うん、今行く!」

 急いで近付いてみる。ヒサメくんが持っているのは……ボロボロの長靴だ!

「それは長靴だよ」
「長靴……? 足の長いニンゲンが履く靴か?」

 大真面目にトンチンカンなことをいうものだから、思わず「ふふっ」と笑ってしまった。

「あ、あれ……? 俺、また変なこと言った?」

 ヒサメくんは、恥ずかしそうに頬をかく。そこで私は笑いを引っ込めた。

「えっとね、長靴は、雨の日に足が濡れないように履く靴だよ。ここまで覆われていれば、水たまりを踏んでも足が濡れないでしょ?」

 足のすねを指さしあげながら教えると、ヒサメくんは「なるほど~!」と興味深そうにうなずく。

「足を濡らさないために、長い靴を作ったというわけか。やっぱりニンゲンは賢いな」

 そんなこと考えたこともなかったけど、最初に長靴を発明した人は賢いのかもしれない。
 ボロボロの長靴をゴミ袋に放り込んで、ゴミ拾いを再開しようとしたとき、少し離れた場所にいたエイちゃんが大きく手を振った。

「こっちに大物があったよ!」
「大物? なんだろう?」
「行ってみよう」

 ヒサメくんと一緒に駆け寄っていく。エイちゃんの目の前には、なんと壊れた扇風機が落ちていた。

「扇風機? なんでこんなところに……」
「ゴミの不法投棄かもね。ときどきあるんだよ」

 不法投棄って、ゴミを捨てちゃいけないところに勝手に捨ててしまうってことだよね?
 処分に困ったからって、海に捨てるなんてひどすぎる……。
 残念な気分になっていると、ヒサメくんがまじまじと扇風機を見つめていることに気付く。

「この真ん中に付いてるヒレのようなもの、見たことがある。たしかニンゲンが乗っていた船にもついていたような……」

 ヒレ⁉ ……って、もしかして、プロペラのこと?

「これに乗れば、海の上を走れるんじゃ……」

 またしても、大真面目にトンチンカンなことをいうヒサメくん。
 その発言に、エイちゃんはプルプルと肩を震わせながら笑っていた。

「なにそのボケ? 斜め上過ぎるんだけど」

 エイちゃんは、ボケとして流していたみたい。深くツッコまれなくてよかった。

「あー、えっとね、ヒサメくん。それは扇風機っていって、涼しい風を送る機械だよ」
「そ、そうだったのか……。俺、何にも知らなくて、恥ずかしい……」

 ヒサメくんは、恥ずかしそうに頬を赤らめていた。

「まあ、留学生だし、知らないことあるのは当然じゃない?」
「そ、そうだよ! わからないことがあれば、なんでも教えるから」

 そう励ましたところで、ヒサメくんも気分を持ち返した。

「ありがとう。やっぱりニンゲンはやさしいな」

 それからも手分けをしてゴミ拾いをしていると、カナメくんが体育座りをしながら、ぽーっと海を眺めていることに気付く。
 もしかして、疲れちゃったのかな? 気になって駆け寄ってみた。

「カナメくん、調子はどう?」
「あ~、クラゲちゃん」

 顔をあげたカナメくんは、ゆるりと微笑んでいる。だけどその表情は、いつもより暗いような……。

「何かあった?」
「う~ん、ちょっとだけ~、悲しいことを思い出して~」
「悲しいこと?」

 なんだろう? 気になってその場で腰を下ろす。ヒサメくんの手には、コンビニでもらうビニール袋があった。

「僕のおじいさんは~、クラゲと間違えて~、これを食べちゃったんだ~」
「これって、ビニール袋? そんなものを食べたら、大変なことになるんじゃ……」
「う~ん。これを喉に詰まらせて~、死んでしまったんだ」

 その話を聞いて、ぞくりと鳥肌が立った。
 そういえば、図書室で借りた本にも、似たようなことが書かれていた。
 海岸に打ち上げられたウミガメの体内から、大きなビニール袋が発見されたそうだ。
 海の中にただようビニール袋は、クラゲと似た動きをするから、間違えて食べてしまうことがあるんだって。

「僕らは~、エサとゴミを見分けるのが難しいんだ~。だから海がゴミであふれると~、僕らは生きていけなくなる~」

 悲しそうなカナメくんの横顔を見ていると、胸が締め付けられる。
 ニンゲンの捨てたゴミのせいで、海の生き物が死んでしまうなんて悲しすぎるよ……。
 そうならないためにも、ニンゲンが責任を持ってゴミを処分しないと。

「あの、私、頑張ってゴミを拾います! 悲しい事故を防ぐためにも!」

 海岸に落ちているゴミを拾えば、海の生き物がまちがって飲み込んでしまう危険を減らせるはず。
 小さなことかもしれないけど、その行動で小さな命を救えるならやる価値はある。

 力強く宣言すると、カナメくんの緑色の瞳が大きく見開かれた。
 本気であることが伝わるようにじっと見つめていると、カナメくんはゆるっと微笑む。

「ニンゲンがみんなクラゲちゃんみたいだったら~、海をまもれるんだろうね~」



 四人で協力してゴミ拾いをした結果、海岸はキレイになっていた。

「みんなありがとう! 一人でやっていた時よりも、たくさんゴミを拾えたよ」

 両手にゴミ袋を提げながらお礼を言う。ヒサメくんは、誇らしげな顔でうなずいていた。

「一人の力は小さくでも、みんな集まれば大きな力になるんだな」
「うん、そうだね!」

 みんなが協力してくれてよかった。達成感に浸りながら、遊歩道に繋がる階段を上っていたそのとき。

 ――カコーン。

 何かが地面に落下する音が聞こえた。階段の上からは、空き缶が転がってきた。

「え? なんで空き缶が?」

 階段をかけあがると、自転車に乗った中学生くらいの男の子が二人いる。
 片方の男の子は、炭酸飲料の缶を片手に持っていた。もう一人の男の子は、何も持っていない。

 もしかして、空き缶を捨てたのって、あの男の子なんじゃ……。いや、でも、捨てる瞬間を見ていたわけじゃないからなぁ。
 モヤモヤしながらも、足元まで転がってきた空き缶を拾ったとき――。

「おい、そこのニンゲン。いま、海にゴミ捨てただろ?」

 南極の氷のような冷たい声が聞こえてくる。

「僕も見たよ。笑いながら、ゴミを捨ててたよね?」

 続けて、ちょっと高くて可愛らしい声が聞こえてきた。

 ハッと顔をあげると、アイスを片手にベンチに座る二人組の男の子がいた。
 ギンガくんと、シロカくんだ! なんで二人がここに?
 二人の威圧的な声で、自転車を走らせていた男の子が止まる。

「ああン、なんだお前ら?」
「海がどうしたって?」

 不機嫌そうな声を聞き、ひっと小さく悲鳴をあげる。あの男の子たち、ちょっと怖いかも……。
 怯えていると、エイちゃんが「あー……」と苦々しい顔を浮かべる。

「三年の黒川先輩たちだね。ヤンチャっぽい人だから、周りから警戒されてるんだ」

 まさかヤンチャな男の子たちだったとは……。しかも先輩だなんて……。
 ギンガくんとシロカくんはベンチから立ち上がると、怯むことなく黒川先輩たちのもとへ近づく。
 目の前までやってくると、冷たい眼差しで二人を睨みつけた。

「拾え」
「はあ?」
「捨てたゴミを、拾えって言ってんだよ」

 ギンガくんが低い声で命令する。
 黒川先輩たちは顔を見合わせると、「だっはっは!」と笑い出した。

「拾うわけねえだろ! いらねえから捨てたのに」
「ダルっ、行こうぜー」

 自転車のペダルを踏んで立ち去ろうとする二人。
 次の瞬間、シロカくんが自転車のタイヤを蹴り飛ばした。横から力が加わったせいで、自転車はガシャーンと横転する。

「まだ話は終わってないんだけど?」

 シロカくんが、地面で倒れ込む男の子を見下ろす。可愛らしい顔だけど、周囲にはブラックなオーラが漂っているような。

「出たな。クロイルカ……」

 ヒサメくんが、ぼそっと呟く。そういえば、シロカくんは怒るとブラックになるって言ってたっけ。

「何すんだよ、テメー!」

 地面に倒れ込んだ男の子は、顔を真っ赤にしながらシロカくんに怒鳴りつける。
 その圧にシロカくんは、まったく動じることなく、冷めた目で見下ろしていた。

「僕は海にゴミを捨てるニンゲンが大嫌いなんだ。拾わないなら、消すよ?」

 鳥肌が立つような冷たい声だ。
 シロカくん、怒るとあんなに豹変するんだ。普段とギャップありすぎぃ!

「空き缶ひとつでうるせえんだよ! やんのか? ああン?」

 地面から立ち上がった男の子が、シロカくんの胸ぐらを掴む。もう一人の男の子も、睨みを利かせながらシロカくんの背後に回った。

 これは、マズイかも。ケンカになっちゃう……。
 ヒヤヒヤしていると、ヒサメくんとエイちゃんが颯爽と前に出た。

「シロカ、さっきのはよくなかったよ。ニンゲンに怪我をさせるところだった」
「黒川先輩も落ち着いてください。下級生をいじめるのはよくないですよ」

 あの雰囲気の中で割って入れるなんて、二人とも度胸ありすぎ。
 そんな二人を見て、男の子たちは「へっ」と鼻で笑った。

「先に喧嘩売ってきたのは、コイツらだろ?」
「生意気な下級生をしめるのも、先輩の役目だっつーの」

 彼らがゲラゲラ笑いだしたところで、ギンガくんがキレた。

「ゴミを正しく捨てる。お前らニンゲンは、そんな簡単なこともできないのかよ! せっかくクラゲたちが、ゴミ拾いしてくれたのに!」

 その言葉を聞いて、ハッとする。
 もしかして、ギンガくんたちは、私たちがゴミ拾いをする姿を見ていたのかな? だからあんなに怒って……。

 ギンガくんの怒りのワケがわかると、震えがとまった。
 隣に立っていたカナメくんが、とんっと私の肩を叩く。

「そのゴミは~、あの子たちに返してあげようよ~」

 握っていた空き缶に、視線を落とす。
 多分、私がこのゴミを捨てれば、この場は丸く収まる。でもそれでは、根本的な問題解決にはならないような気がした。

 海を守るためには、ゴミを捨てる人を消さないといけない。だけど、その「消す」は、話し合いでも実現できるはず。
 バクバク暴れる心臓を押さえながら、カナメくんの顔を見てうなずく。

「私、行ってくるよ」

 そう宣言してから、黒川先輩たちのもとへ向かった。

「あ、あの!」

 震える声で話しかける。みんなの視線が私に集まった。
 怖くて、怖くて、仕方がなかったけど、気を強く持って訴えた。

「う、海の中には、陸にいるニンゲンよりも、たくさんの生き物がいます! マグロなどの魚類も、イルカなどの哺乳類も、エビなどの甲殻類も、イカなどの軟体動物も」

 黒川先輩たちは、ぱちぱちと瞬きをする。

「……は? なんだよ急に」

 その声で怖気づいてしまったけど、がんばって続けた。

「彼らにとって、海の中は家なんです。汚されたらとっても困るんです。先輩たちだって、勝手に家を汚されたら困るでしょ?」

 スーハーと深呼吸してから、手に持っていた空き缶を差し出す。

「だからこれは、持って帰ってください」

 ぺこりとお辞儀をしてから、ヒサメくんの隣に駆け寄った。
 呆気に取られていた男の子は、返された空き缶をじっと見る。しばらくすると、ガシガシと頭をかいた。

「たくっ、メンドくせえなー。生徒指導のエビセンかよ」

 そう悪態をついたところで、エイちゃんが涼し気な笑みを浮かべる。

「黒川先輩、私たち海老原先生のクラスの生徒なんですよ」
「ああ? マジかよ?」
「はい。今日のことを私たちがうっかり海老原先生に言っちゃったら、先輩たちはすごく面倒なことになると思うんですけど」

 黒川先輩は、げっと顔を引きつらせる。

「また反省文書かされんのはごめんだぜ。行くぞ!」

 そう吐き捨てると、空き缶を持って自転車を漕ぎ始める。連れの男の子も、急いでその背中を追いかけた。
 ポカンと彼らの背中を見送っていると、ヒサメくんに背中を叩かれた。

「クラゲの一声で、あのニンゲンたちがゴミを持って帰ったぞ」
「う、うーん? 私のというより、みんなのって感じだけど」

 一番に効いたのは、海老原先生の反省文だったみたいだし。
 海老原先生って、普段はのほほんとしているけど、ときどき熱血になるところがあるんだよね。最近知ったんだけど。

 一件落着して、平穏が戻ってきたところで、ギンガくんたちの方に視線を送った。

「ギンガくんとシロカくんは、私たちがゴミ拾いをしているところを見ていたの?」

 ギンガくんはサッと目を逸らす。その反応とは対照的に、シロカくんは「そうだよ~」とあっさり認めた。

「今朝、ベッドで寝てたら、ギンガにアイス買いに行くぞって叩き起こされたんだ。それでついて行ったら、この海岸にきて……むぐぐっ」
「喋んな。それ以上」

 シロカくんは、ギンガくんに口を押えられて強制的に黙らされた。

「別にお前らが気になったわけじゃねーから。行くぞ」

 ギンガくんは目を逸らしながらそう吐き捨ていると、シロカくんを連れて去っていった。

 ギンガくん、口ではあんなこと言っていたけど、本当は私たちのことを気にかけてくれていたんじゃ……。
 意外と仲間想いな男の子なのかも?