逃げ切ったら一億円

恋人のカズマとは付き合い始めて2年が経つが、別れられずにいた。
借金があるとはいってたけど、学生なんだし、せいぜい十数万程度だと思っていた。
友達からは「ダメンズが好きな人っているよね」ってあきれられている。
だけど、さすがに借金が数千万円あると聞かされたら、異次元すぎてムリになった。

『別れよう』とメッセージアプリで送る。
『心配しないで。ゲームに参加できることになったから。逃げ切ったら一億円。そうしたら、借金も全部チャラになる』

やっぱりカズマはバカだった。
マンガじゃあるまいし、そんな話があるわけない。闇バイトとか人身売買に関わるヤバイ話に違いなかった。

『だいたい逃げ切るってどういうこと? 姿をくらますとかじゃないよね?』
それに対する返信もなく、カズマとは音信不通になってしまった。
心配だけど、私にできることはなにもない。
せいぜい大学からご家族に姿が見当たらないことを伝えてもらうくらいだった。

それから三ヶ月が過ぎたころだ。
カズマは私が住んでいるアパートに現れた。やせ細ってはいるが思ったよりもこぎれいで、いい服を着ていた。

「逃げ切ってやったぜ」
正直言って怖かった。大金をせしめたのなら、悪いことをやったに違いなかった。

「借金を返済してきたの?」
そうたずねるとカズマは鼻で笑った。
「ばっくれたに決まってるだろ。オレはもう死んだことになってる。逃げ切ったんだよ」

意味がわからないがそういうことらしい。借金を踏み倒した上に、一億円を手に入れたというのだった。

「見つからずにどうやって暮らすの?」
「整形とか? 一億あればイケメンに生まれ変われるな」

その図太さには恐れ入る。そのうち戸籍でも用意しそうだった。
でも、どこか抜けている。

「だったらグズグズしてる場合じゃなくない? こんなところにいて見つかったらどうするの。なんで先に整形してこないのよ」
「顔が変わってオレだと信じてもらえないとさみしいじゃん。別人になるにしてもさ、オレだって知ってる人がひとりでもいないと」
「それが私ってこと?」
「きみならきっと手助けをしてくれると思ってた」
「だけど、そんな大金どこへ置いてきたの? 誰かに拾われたら水の泡じゃない?」
「駅前のコインロッカーに預けてきたから大丈夫だよ」

私はそばにあった電気コードをひっそりとたぐり寄せていた……