放課後のチャイムが鳴った瞬間、教室の空気が少しずつ変わっていく。
帰り支度をする音。友達同士で交わされる声。机を動かす音。
私は鞄に教科書をしまいながら、何度も深呼吸をする。
言わなきゃ。
そう決めたはずなのに、いざその時が来ると、手が少し震えた。
「夏井」
その声に、肩が小さく跳ねる。顔を上げると、晴海が立っていた。
「帰らないの?」
いつもと変わらない顔。いつもと変わらない声。その何気ない優しさが、今は余計に胸を締めつける。
「あ、うん」
慌てて立ち上がる。でも、今日はいつもの帰り道じゃない。
「あの」
声が少し震えた。
「ん?」
晴海が首を傾げる。
その仕草さえ、愛おしいんだよ。
「今日、少し時間ある?」
言えた。
たった一言なのに、心臓が大きく音を立てる。



