家に帰って、自分の部屋に入る。
机の上には、今日持ち帰った進路調査票が置いてあった。
私は椅子に座り、しばらくその紙を見つめた。
第一志望。第二志望。書き込む欄はまだ空白だった。
でも、今までとは違うところで悩んでいた。
どこの大学へ行くかじゃない。どこで未来を過ごすかでもない。
ただ、ひとつのことが頭から離れなかった。晴海がいない春を、私は想像できなかった。
「……なんで」
小さく呟く。どうしてこんなに苦しいんだろう。
大塚くんの時とは違う。胸が締めつけられるような痛みなのに、どこか温かい。
失うことが怖いと思うほど、その人との時間を大切に思っているということなのかもしれない。
スマホの画面を開く。晴海とのトーク画面。最後のメッセージは、数日前の『今日は楽しかった。また行こう』という言葉だった。
指先でその文字をなぞる。
「また行こう」
その約束が、急に遠いものに感じた。
でも、本当はまだ何も決まっていない。卒業まで時間はある。受験だってこれからだ。
なのに、どうして私はもう別れの日を想像しているんだろう。
自分でも分からない気持ちを抱えたまま、私は静かにスマホを閉じた。
夏の終わりに感じた寂しさとは、また違う寂しさだった。
季節が変わるだけじゃない。私たちのいる場所まで、変わってしまうかもしれない。その現実を、私は初めて知った。



