私は静かに職員室の扉を閉める。
ガラガラ、と小さな音が廊下に響いた。
…………県外、なんだ。晴海は。
私はさっきまで、県内の大学にしようって決めたばかりだった。
家から通える大学。親にも負担をかけない場所。それが一番自分らしい選択だと思った。
なのに、晴海は県外へ行く。
卒業したら、この街を離れるんだ。
廊下の窓から見える空は、どこまでも高く澄んでいた。
夏休みが終わる前、海で見た空と同じ色だったはずなのに、今日は少しだけ遠く見える。
『来年も、また来たいね』
夕暮れの海で、晴海が何気なく言った言葉が蘇る。
あの時は、何も考えずに「うん」と笑って返した。
でも、来年の夏。晴海はこの街にいるんだろうか。
大学の夏休みで帰ってくるのかもしれない。でも、それは「帰ってくる」という言葉になる。
ここはもう、晴海が暮らす場所じゃなくなる。
そんな未来を初めて想像してしまった。



