夢を見つけたわけじゃない。やりたいことが決まったわけでもない。
それでも、止まったままだった時計の針が、ほんの少しだけ動いた気がした。
「じゃあ来週までに書いて持ってこい」
「はい。ありがとうございました」
私は立ち上がって一礼し、職員室の出口へ向かった。
扉に手をかけた、その時だった。
「失礼します」
聞き覚えのある声がして、思わず振り向く。
その声だけで誰なのか分かってしまう自分に、小さく苦笑いしそうになる。
職員室へ入ってきたのは、晴海だった。
私は扉の横へ少し避ける。
「あ、夏井。先生に呼ばれてた?」
「うん、進路のことで」
「そっか」
ほんの短いやり取り。それだけなのに、さっきまで張りつめていた気持ちが少しだけほどける。
「じゃあまた教室で」
そう言って私は職員室を出ようとした。
その時、先生の声が背中から聞こえてきた。
「晴海、お前も進路の確認な。第一志望は変わってないか?」
扉は閉めようとしていたはずなのに、その一言だけが耳に残った。
思わず足が止まる。
聞くつもりなんて、なかったのに。



