「夏井」 今度は教室の前から先生に呼ばれた。 「ちょっといいか」 心臓が小さく跳ねる。 「はい」 返事をして席を立つ。 「進路のことだと思う」 緑が小声で言ったのを聞いて、私は苦笑いしながら頷くしかなかった。 先生の後ろを歩きながら、手に持った進路調査票へ視線を落とす。 白い紙が、やけに重たく感じた。 教室を出ると、廊下の窓から入る風が制服の袖を揺らした。 夏の終わりの風は、少しだけ涼しくて、そのくせ胸の中だけは、どうしようもなく落ち着かなかった。