晴海は答えなかった。ただ、少しだけ赤くなった耳を隠すように海を見る。
「私、夏の空、好き」
何気なく言ったその言葉に、晴海の肩がほんの少し揺れた。
「……あー、そう」
いつもの返事。でも、どこかいつもと違う。
「なにその反応」
「いや……嬉しいだけ」
小さな声だったから、波の音に消えそうだった。
帰り道、隣を歩く晴海の影が夕日に長く伸びていた。
夏はもうすぐ終わる。
でも、今年の夏に出会ったたくさんの瞬間は、きっと消えない。
大塚くんがくれた優しさも。緑が教えてくれた知らなかった事実も。
そして、晴海と過ごした時間も。
全部が私の中に残っている。
季節は少しずつ変わっていく。
蝉の声も、暑い日差しも、いつか終わる。
「夏井。来年も、また来たいね」
それでも、この夏の最後に見た海の色だけは、ずっと忘れない気がした。



