まだ帰りたくない。もう少しだけ、晴海の隣にいたい。
そんな気持ちを隠していると、ふいに「夏井」と呼ばれた。
「なに?」
「海、行かない?」
「海?」
「近くにあるみたい。せっかくだし」
晴海も、もう少し一緒にいたいと思ってくれているのかな。
そんな期待が生まれる。でも、聞くことはできなかった。
「……行きたい」
「じゃあ行こ」
夕方の海は、昼間とは違う静けさがあった。
波の音だけが聞こえて、空はオレンジ色に染まっている。
この時間がずっと続けばいいのに。
「夏井が今日、来てくれてよかった」
振り向くと、晴海は海を見ていた。
「大塚のこと、まだ少し引っかかってると思ったから。だから、ひまわり見たら少しは笑えるかなって」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
「……ありがとう」
「うん」
少し風が吹く。夏の終わりを知らせるような、少しだけ涼しい風だった。



