祭りが始まった頃とは比べものにならないくらい人が増えていて、人の流れに逆らえば飲み込まれてしまいそうだった。
立ち止まることもできない。肩が何度もぶつかって、そのたびに小さく息が詰まる。
背中を伝う汗は暑さのせいだけじゃなくて、胸の奥からじわじわ広がる不安のせいだ。
「……っ、電話……電話かけよう」
震える指でスマホを取り出し、大塚くんの名前を開いて発信する。
耳に響く呼び出し音。
ひとつ。ふたつ。みっつ。
返事はない。この喧騒の中じゃ、着信音なんてきっとざわめきにかき消されてしまう。
……私が余計なことばかり考えていたから。
返事のことなんて考えて、ちゃんと隣を見ていなかったから。
後悔と焦りが胸の中でぐちゃぐちゃに混ざり合って、視界が少しだけ滲む。
俯きかけた、その瞬間だった。
「夏井?」



