すると、不意に晴海がこちらを向いた。ぱちり、と音がしたような気がした。
人混みの隙間を縫って、真っ直ぐに視線が重なる。ほんの一瞬。
けれど、その一瞬だけで十分だった。
晴海は少しだけ目を見開き、驚いたように動きを止める。
あんなにたくさんの人がいて、屋台の呼び込みや笑い声があちこちから聞こえてくるのに、その瞬間だけ周りの音がすべて遠ざかった気がした。
夏井、と確かに、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
遠いはずなのに、不思議なくらいはっきりと耳に届いてしまって、心臓が大きく跳ねる。
「夏井?」
すぐ隣から聞こえた声にも反応できない。
「……っ」
「夏井!」
少し強く名前を呼ばれて、ようやく意識が引き戻された。
目の前には心配そうな表情を浮かべる大塚くんがいる。
……っ、しまった。
私は今、大塚くんと一緒にいるんだった。
返事を伝えるために、今日ここへ来たんだった。



