「お願いがあるんだ」
「お願い?」
「あと一回だけ、俺に時間ちょうだい」
真っ直ぐな瞳だった。無理に引き止めるわけでも、答えを変えてほしいと言うわけでもない。
「来週、花火大会あるじゃん」
「……うん」
「一緒に行ってほしい」
胸の奥が静かに揺れる。
「その帰りに、返事を聞かせて」
そう言って、大塚くんは少し照れくさそうに笑った。
「それでちゃんと区切りをつけたいから」
夏の夕暮れが、ゆっくり街を茜色に染めていく。
蝉の声が、雨上がりの空へもう一度響き始める。私はその音を聞きながら、小さく息を吸った。
「……分かった」
頷くと、大塚くんは安心したように笑う。
たったそれだけの約束なのに、胸の奥は少しだけ重たくなった。
花火が咲く夜には、きっと誰かの想いも終わる。そのことだけは、まだ夏の匂いが残る風の中で、はっきりと分かっていた。



