「近……」
「濡れるから」
大塚くんはそう言って、私の肩が雨に当たらないように傘を少し傾ける。そのせいで今度は大塚くんの肩がじんわり濡れていく。
「大塚くん、そっち濡れてるよ」
「平気」
「いや、でも……」
「夏井が風邪ひくほうが困る」
さらっと言われて、何も返せなくなる。
濡れたアスファルトには雨粒が小さな輪をいくつも描いていて、その中を二人分の足音だけがゆっくり重なっていく。
湿った風が吹くたび、雨の匂いと土の匂いが混ざって鼻をくすぐった。
「どこ行くの?」
さっきから何度も聞いているのに、大塚くんはまた笑う。
「だから秘密」
「また?」
呆れたように言うと、「もうすぐだから」とだけ返ってくる。
校門を出て少し歩く。雨の日だからか、いつも賑やかな通学路も今日は人が少ない。
遠くで車が水たまりを跳ねる音だけが静かに響いていた。
「あ」
不意に私の足が水たまりを避け損ねる。
「危なっ」
その瞬間、ぐいっと腕を引かれた。
「きゃっ……」



