二十四年に及ぶ、超弩級のすれ違い。
それは、剥き出しの執着が詰め込まれた秘密の部屋で、ついに終わりを迎えた――
はずだった。
「……本当に、お前は俺でいいのか?」
拓真は優里を抱きしめたまま、信じられないというように問いかける。
その腕は、もう二度と離さないと誓うように、ぎゅっと強く回されていた。
「こんな……お前の折れた鉛筆を神棚に飾るような男だぞ」
「……正直に言うと」
優里は彼の胸に額を押し当て、小さく息を吐いた。
「ちょっと……引きます」
拓真の肩が落ちる。
「でも」
優里は続けた。
「それ以上に……私を嫌っていなかったって知れたことが、すごく嬉しいんです」
その言葉に、拓真の腕にこもる力が、ほんの少しだけ優しくなった。
――と、その瞬間。
「優里さぁぁぁん!!」
轟音とともに、離れの壁が物理的に崩壊した。
巨大なショベルカーのバケットが突き破った壁の向こう。
操縦席には、理性のリミッターが完全に外れた西園寺勝利。
「重機で助けに来ました!
偽装結婚という偽りの鎖を、今ここで断ち切ってあげましょう!!」
「……西園寺」
拓真は、優里を背後に庇いながら、静かに目を細めた。
「俺の家を壊すのは百歩譲って許す」
一拍。
「だがな……その重機のせいで、優里が埃を被っただろうが」
声が、低く震える。
「優里に埃をつけた罪……一生かけて償わせてやる」
拓真は躊躇なく跳躍した。
「西園寺銀行ごと、買い叩いてやる!!」
「やってごらんなさい!
愛の重機は無敵です!!」
庭で始まる、
御曹司 vs 重機男の泥沼肉弾戦。
その光景を、美優はスマホで生配信していた。
「拓真さんさー、お姉ちゃん絡むと本当にIQ下がるよね」
画面を確認しながら笑う。
「あ、視聴者数100万超えた!
タイトルは『重すぎる愛の決闘』でいこ!」
――数時間後。
警察と、片桐家が誇る最強の弁護士団によって勝利は連行され、
離れには再び静寂が戻った。
……壁には、盛大な穴が開いたままだが。
「……優里、怪我はないか?」
鼻血を拭いながら、拓真が心配そうに覗き込む。
「怖くなかったか?
病院に行くか?
それとも……俺の心拍音を聞いて落ち着くか?」
「……拓真さん」
優里は苦笑しながら、彼の頬に触れた。
「落ち着いてください。私は大丈夫です」
「……あぁ」
拓真の目が潤む。
「名前で呼んでくれた……。
今の声、録音した。
一生アラーム音にする」
「…………」
優里は一瞬黙り込み、それからため息をついた。
「……やっぱり、前より愛が重くなってませんか?」
「安心しろ」
拓真は真顔で答える。
「まだ序盤だ」
呆れながらも、優里はその視線を真正面から受け止めた。
かつては
「自分を嫌っている天敵」だと思っていた男。
今は
「自分なしでは一秒も生きられない、巨大で不器用な子供みたいな夫」。
「拓真さん」
優里は、そっと微笑んだ。
「これからは……偽装じゃなくて、
本物の夫婦として、よろしくお願いしますね」
「……ああ」
拓真は深く頷き、震える手で指輪を取り出す。
「二十四年、待たせたな」
指に通されたのは、
二十四年前から密かに用意されていた特注の指輪。
サイズは――
一ミリの狂いもなかった。
「死んでも、お前を幸せにする。
嫌だと言っても……お前の隣から、一歩も動かん」
数年後。
美優と楽しそうに話す拓真を見て、
一瞬だけ胸がざわつく優里。
その瞬間。
「優里」
耳元で囁かれる声。
「今、俺以外のことを0.1秒考えただろ」
「え、ちょっ――」
「お仕置きだ」
ぎゅっと抱きしめられる。
「……はいはい」
優里は呆れつつも、腕の中で小さく笑った。
「ねえ、お姉ちゃん」
美優が言う。
「私の作戦、大成功だったでしょ?」
「……美優のせい(おかげ)で」
優里は肩をすくめる。
「私の夫、世界一重いストーカーになっちゃったんだけど」
それでも。
その腕の中は、確かに温かく、安心できる場所だった。
ヘタレな神様は、ついに最愛の信者を手に入れ、
二人の終わらない、拗らせた愛は、これからもずっと続いていく。
――完。
それは、剥き出しの執着が詰め込まれた秘密の部屋で、ついに終わりを迎えた――
はずだった。
「……本当に、お前は俺でいいのか?」
拓真は優里を抱きしめたまま、信じられないというように問いかける。
その腕は、もう二度と離さないと誓うように、ぎゅっと強く回されていた。
「こんな……お前の折れた鉛筆を神棚に飾るような男だぞ」
「……正直に言うと」
優里は彼の胸に額を押し当て、小さく息を吐いた。
「ちょっと……引きます」
拓真の肩が落ちる。
「でも」
優里は続けた。
「それ以上に……私を嫌っていなかったって知れたことが、すごく嬉しいんです」
その言葉に、拓真の腕にこもる力が、ほんの少しだけ優しくなった。
――と、その瞬間。
「優里さぁぁぁん!!」
轟音とともに、離れの壁が物理的に崩壊した。
巨大なショベルカーのバケットが突き破った壁の向こう。
操縦席には、理性のリミッターが完全に外れた西園寺勝利。
「重機で助けに来ました!
偽装結婚という偽りの鎖を、今ここで断ち切ってあげましょう!!」
「……西園寺」
拓真は、優里を背後に庇いながら、静かに目を細めた。
「俺の家を壊すのは百歩譲って許す」
一拍。
「だがな……その重機のせいで、優里が埃を被っただろうが」
声が、低く震える。
「優里に埃をつけた罪……一生かけて償わせてやる」
拓真は躊躇なく跳躍した。
「西園寺銀行ごと、買い叩いてやる!!」
「やってごらんなさい!
愛の重機は無敵です!!」
庭で始まる、
御曹司 vs 重機男の泥沼肉弾戦。
その光景を、美優はスマホで生配信していた。
「拓真さんさー、お姉ちゃん絡むと本当にIQ下がるよね」
画面を確認しながら笑う。
「あ、視聴者数100万超えた!
タイトルは『重すぎる愛の決闘』でいこ!」
――数時間後。
警察と、片桐家が誇る最強の弁護士団によって勝利は連行され、
離れには再び静寂が戻った。
……壁には、盛大な穴が開いたままだが。
「……優里、怪我はないか?」
鼻血を拭いながら、拓真が心配そうに覗き込む。
「怖くなかったか?
病院に行くか?
それとも……俺の心拍音を聞いて落ち着くか?」
「……拓真さん」
優里は苦笑しながら、彼の頬に触れた。
「落ち着いてください。私は大丈夫です」
「……あぁ」
拓真の目が潤む。
「名前で呼んでくれた……。
今の声、録音した。
一生アラーム音にする」
「…………」
優里は一瞬黙り込み、それからため息をついた。
「……やっぱり、前より愛が重くなってませんか?」
「安心しろ」
拓真は真顔で答える。
「まだ序盤だ」
呆れながらも、優里はその視線を真正面から受け止めた。
かつては
「自分を嫌っている天敵」だと思っていた男。
今は
「自分なしでは一秒も生きられない、巨大で不器用な子供みたいな夫」。
「拓真さん」
優里は、そっと微笑んだ。
「これからは……偽装じゃなくて、
本物の夫婦として、よろしくお願いしますね」
「……ああ」
拓真は深く頷き、震える手で指輪を取り出す。
「二十四年、待たせたな」
指に通されたのは、
二十四年前から密かに用意されていた特注の指輪。
サイズは――
一ミリの狂いもなかった。
「死んでも、お前を幸せにする。
嫌だと言っても……お前の隣から、一歩も動かん」
数年後。
美優と楽しそうに話す拓真を見て、
一瞬だけ胸がざわつく優里。
その瞬間。
「優里」
耳元で囁かれる声。
「今、俺以外のことを0.1秒考えただろ」
「え、ちょっ――」
「お仕置きだ」
ぎゅっと抱きしめられる。
「……はいはい」
優里は呆れつつも、腕の中で小さく笑った。
「ねえ、お姉ちゃん」
美優が言う。
「私の作戦、大成功だったでしょ?」
「……美優のせい(おかげ)で」
優里は肩をすくめる。
「私の夫、世界一重いストーカーになっちゃったんだけど」
それでも。
その腕の中は、確かに温かく、安心できる場所だった。
ヘタレな神様は、ついに最愛の信者を手に入れ、
二人の終わらない、拗らせた愛は、これからもずっと続いていく。
――完。

