「HappyBirthday蜜冠(みかん)!!」


晴れて十四歳になった私は、ルンルン気分でケーキを頬張った。

「んー、美味しい〜っ!! このケーキ最高〜。 ねぇ、クリスマスケーキもこれにしようよ!!」
「いいねぇ。 叔父さんが注文してあげるよ」
「やったぁ!! 叔父さんありがとう〜」

大げさに喜んでサイダーをグビグビと飲むと、私は話を続けようとする。

でも、私が話を振っているのに、お父さんやお母さんはあまり返事をしてくれない。
楽しい気分が下がっていくのを感じて、思わず問うてしまう。

「……お父さんもお母さんも、ケーキ食べてない…………なにかあったの?」

不安げな私を見て叔父さんはその原因に思い当たったのか、顔をしかめて言った。


「おい、今日は蜜冠の誕生日だろう? 儀式のことなんて一旦忘れろ」


「儀式って……? 叔父さん、何それ?」
その言葉が私の生活とは縁遠すぎて、思わず聞き返してしまう。

「なな、何でもないぞ。 今は、蜜冠は知らなくてもいいんだからな」
「えっ……教えてよ……!!」

私は、眉尻を下げて文句を言った。
叔父さんとお母さんは顔を見合わせた。
叔父さんが何か言おうとするより先に、お母さんが神妙な面持ちで私に向き直った。


「…………あのね蜜冠、来週から貴方は、“儀式”をしないといけないの」

「だから、その儀式について知りたいの! お母さん、ちゃんと説明してってば」
つい言葉がキツくなってしまう。
ごめんなさい、と謝ろうとした私を、叔父さんが遮った。

「おい! 儀式のことなら、後で話せ! 折角の椛田(はなだ)家総出の誕生会が台無しになるだろう!」
「だって……一刻も早く伝えてあげないと、蜜冠が可哀想だわ」
「だとしても、今じゃないだろ。 祝いの場だぞ?」

儀式のことを私に伝えるか否かと、お母さんと叔父さんが言い争いを始める。

「二人とも、喧嘩はやめて。……私は大丈夫だから、 儀式について教えてよ」
「「……」」
私が口を挟むと、気不味そうに目を逸らした二人。

「……ほら兄さん、蜜冠も良いって言ってる。教えてあげましょうよ」
先に口を開いたのはお母さんで、急かすように叔父さんに話しかけた。

「…………分かった」

渋々というように頷いた叔父さんから目線を外し、お母さんがこちらに向き直った。


「あのね蜜冠。 信じがたいとは思うけど、聞いてくれる?」

「分かった」
こくりと首を縦に振った。 苦虫を噛み潰したようなお母さんと、目を合わせる。



「儀式っていうのは、蜜冠が一週間でした良い事を、神様に報告するものなの」

それが儀式だなんて大げさだ……と思った私は、続くお母さんの言葉に顔を青ざめさせた。



「―――一週間のうち、必ずぴったり四十四回、良い事をしないといけないのよ」

「ぴったり四十四……? 失敗したら、どうなるの?」

慌てて聞いた私に、隣の叔父さんが口を開いた。



「……―――その時は、蜜冠の、今の生活が保証できないとだけ言っておく」


サッと、顔の熱が引いた。

……今の生活の、保証ができない…………それっ、て……。
いそいそとケーキを口に運んでいた姉・神奈(かな)と妹・寿桃(すもも)も、クリームをぽとりと落とした。


「ま、待って待って!! というか、何で私なの!?」
我に返った私は、殆ど悲鳴のような声をあげた。

「椛田家が古くからある名家なのは知ってるな?」
「うん……まぁ、それくらいは……」
ボソボソと返事をする。
「うちはその時からのしきたりで、次女か次男が儀式をすることになってるんだ」
「そんな……」
迷惑だよっ……と、心が訴えかける。 でも、ショックとか恐怖が入り混じって、声に出せない。


「…………まぁ。 今週から“良い事四十四個”、頑張ってこなしてくれよ」
「……」
返事なんてまともにできない状態で、頷くしか選択肢がない。
無言を肯定ととった叔父さんは、満足気に笑った。


「じゃあ、蜜冠の誕生会、続けるぞー!!」
「……」

私は叔父さんの笑顔に反して頬を引き攣らせ、炭酸の抜けたサイダーを喉に流し込んだ。
シュワシュワしてなくて、中途半端な味だった。