茜くん、ちょっと落ち着こう!?

放課後。帰り支度を終えた私は、約束通りに真央と一緒に学校を出た。
二人でお目当てのカフェがある駅へと向かう。
「えーっと、次の信号を曲がれば着くみたいだよ」
「楽しみだね!」
「ね〜!どんなケーキ頼もっかな〜」
真央と二人でワイワイはしゃぎながら真っ直ぐ目指す。
その時、向こう側から歩いてきた男の二人に声をかけられる。
「やっほー何してんの?」
よく見ると、ちょっと柄の悪そうな二人に私は萎縮(いしゅく)してしまう。
「え、あの......」
「お兄さん達とお茶しない?奢るよ」
「よく見たら可愛いじゃーん」
えっと、これはアニメとかで見たナンパというやつだよね。リアルでされるなんて思わなかったなー。
ちゃんとこういうのは断らないと。
そう思って「ごめんなさい」と謝ろうとしたら、私が言うより先に真央が大声で、
「け、結構です!」
ハッキリと断ってくれたので、ちょっとホッとしてしまった。
しかし、男達はそれでも諦めてくれる気配はなく、
「ねー、良いじゃん。ちょっとだけ」
なんて言いながら手を伸ばしてきた。
腕を掴まれそうになって焦った瞬間、真央が私の手をギュッと握ると、勢い良くその場から走り出した。
「椿芽、逃げるよ!変人だ!!」
「う、うん!」
私も必死で逃げる。
それでも、彼らはしつこく追いかけてくる。
とっさに路地裏に逃げ込んでみるが、突き当たりで追いつかれてしまい、私達は立ち往生してしまった。
「みーつけた」
「来ないで変人!」
「俺達なんでも奢ってあげるよ?」
じりじりと距離を詰めてくる。
手を掴まれてしまって、抵抗するが力が強くて敵わない。
どうしよう。このままどこかに連れて行かれるのかな?
二人でカフェで美味しいケーキを食べようって話をしてただけなのに......。
思わず泣きそうになった、その時だった。
―――バコン!
「いてぇ!」
どこから鞄が飛んできて、男達の頭に見事にクリーンヒット。
男達は掴んでいた腕を話すと、後ろを振り返った。
「うちの妹に何してくれとんねん」
よく見たら、そこにはなんとめちゃくちゃ怖い顔をしたお兄が手をボキボキしながら立っていて。
(こっわ!)
身内ながら、怖いと思ってしまった。
男達は一瞬ぽかんとした顔でお兄を見た後、苦笑いを浮かべた。
「椿芽をナンパしようとした奴はお前らやな?」
男達は一瞬たじろぐ。
「い、いやー......その」
「「す、すみませんでした!!」」
男達は逃げようとするが、お兄に首根っこを捕まえれてそれを阻止される。
「おいコラ、何逃げようとしとんねん。やること残っとるやろ」
「「ひっ!お、お金あげるのでご勘弁を!!」」
男達は自分の財布から一万円札を取り出して震える手でお兄に差し出すが、お兄がそれを叩き落とす。
「いらんわ、そんなん」
「そ、そですか......」
「で、では何を......」
「んなもん決まっとるやろ。この子らに謝罪せぇ!」
お兄の低い声に、男達はビクッと肩を震わせた。
「「すみませんでした!!」」
男達は揃って頭を下げ、転けそうになりながら路地の向こうへ走り去って行った。
「椿芽ー!大丈夫か?怪我してへんか?」
さっきまでの不機嫌丸出しの声とは違い、私に抱きついて泣き出しているお兄。
「......えっと」
ほらー、真央が引いてるよー......。
「放課後、友達と遊びに行くって聞いて......俺めっちゃ心配で、部活早退して来たら椿芽が変な奴にナンパされとるし......」
とりあえず泣きついてくるお兄を引き剥がし、落ちているお兄の鞄を拾い上げる。
「うっ......ありがとうな」
真央は少し離れた場所で気まずそうに目を泳がせている。
「あの......助けてくれてありがとうございました」
「ええよ。椿芽の手引っ張って逃げてくれてありがとうな。本当ならすぐにでも助けたかってんけど、横断歩道に引っかかってしもうてな......」
照れくさそうに頭を搔く。
「せっかくやし」
お兄は咳払いを一つしてから、
「俺も着いて行ってええか?また変な奴に絡まれたらあかんやろ」
お兄の提案に、二つ返事で了承した。
もうあんな目に合いたくないし......お兄がいたら大丈夫だよね。