それから五日後。茜くんが休み時間の度に抱きしめてくること以外、至って平和だ。
「椿芽ー!おはよ〜」
「おはよ〜」
朝、下駄箱に駆け込んだら遅刻ギリギリ仲間の真央に声をかけられた。
彼女は階段を登りながら風で乱れた前髪とリボンをササッと直す。
うちの学校は比較的制服のアレンジが自由なので、真央は学校指定のシャツにオシャレブランドのベストを羽織っており、めっちゃ可愛い!
ちなみに私は、入学の時に買ったままの指定シャツにサーモンピンク色のパーカー。
(もうちょっとオシャレした方が良いのかな......?)
「茜くんって、本当に椿芽のこと好きだよね〜」
「あはは......」
最初は男子の冷やかしや女子の嫉妬心の視線もあったが、数日経てばみんなそんな茜くんに慣れていった。
慣れって怖い......。
何人かの女子に「椿芽ちゃんって茜くんとどういう関係!?」とか「付き合ってるの!?」とか、数日間のうちに何十回も聞かれまくったのだが、私は会ったこともなければ、茜くんに対して少し苦手意識がある。
なんせ初対面で抱きつかれた挙句、気絶させられたのだから。
「てか、茜くんと椿芽って本当に会ったことないんだよね?」
「ないよ」
「うーん、茜くんって犬みたいだよね」
「あー......確かに」
犬。
そう、確かに犬っぽい。
視線、行動、距離感が全て真っ直ぐすぎる。
それだけならまだ良い。
問題は、私がその真っ直ぐさに毎回振り回されているということだった。
「あ」
なんて話していると、登校してきたらしい茜くんと目が合った。
瞬時にぱぁぁ!と満面の笑みになる茜くん。
そして、いつも通り抱きしめられる。これまでがセット。
これに慣れてしまった私も大概だと思う。
「椿芽、おはよ」
「あ、おはよう」
少し声が小さくなってしまった。
「お。恵美、今日も綾辻パワー貰ってんのか?」
「いやー、仲の良いカップルですなー」
通りかかった同じクラスの男子がニヤニヤしながら教室に入っていく。
真央に目を向けると、真央もすっと後ろに下がっている。
(待って!?見捨てないで!!)
「あの......茜くん」
「ん」
「教室入りたいから......その、離れてほしいな〜......なんて」
そう言うと、バッと離れてくれた。
(よし、ダッシュで教室に入ろう)
茜くんを避けてそのまま走る。席に滑り込むように座った瞬間、心臓がバクバクと音を立てる。
(セーフ......)
朝のホームルームが終わると教科書を取り出して、授業の準備を始めた。
―――ぼくがおおきくなっらたら、ぼくとけっこんして!
頭の中で誰かの声がした。
聞き覚えのある気がするが、はっきりと分からない。そのくせ、ひどく懐かしいのが腑に落ちなくてつい、眉間にシワが寄る。思い出せないもどかしさに寝返りを打つ。
―――つばめちゃん、おきようよ
とは言われてもそう簡単にはいかない。だって目覚まし時計のアラームは鳴っていないのだ。あのけたましくも忌々しい音が朝を知らせるまでは、一秒たりとも起きてやらない。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムの音に私はハッと瞬いた。
周りのみんながお弁当を出している。私だけ一限目の教科書を開いたままだ。
「あれ、もうお昼休み!?」
「椿芽、ずーっと寝てたよね」
前の席の真央が一限から四限までのノートを見せてくれた。
「ありがとう」
「どーしたの?寝不足?」
真央の言葉に首を傾げる。
「ん〜そういう訳じゃないんだけど......変な夢を見て」
「夢?」
夢の内容を思い出そうとしても、霧がかかったように思い出せない。何か大切な夢だったような......。
「どんな夢?」
真央に聞かれて、お弁当のゴムを外しながら首を捻る。
「それが思い出せなくて......う〜ん」
「思い出せないなら気にしなくても良いんじゃない?」
「そうかも」
そう答えたものの、胸の奥に小さな引っ掛かりを覚えた。
その時。
「椿芽」
もう聞き慣れてしまった声に頭を上げると、茜くんが立っていた。
今度はちゃんと距離を保って、手には焼きそばパン。
「一緒に食べよ」
「え?」
思わず間の抜けた返事をしてしまった。
「ここ座っても良いかな?」
真央ちゃんはニコニコと親指を立てている。
茜くんは真央ちゃんにありがとうと言って、近くの椅子を持ってきた。
「購買が混んでて、座るとこがなかったんだ」
「あ、そうなんだ......」
「椿芽ー!おはよ〜」
「おはよ〜」
朝、下駄箱に駆け込んだら遅刻ギリギリ仲間の真央に声をかけられた。
彼女は階段を登りながら風で乱れた前髪とリボンをササッと直す。
うちの学校は比較的制服のアレンジが自由なので、真央は学校指定のシャツにオシャレブランドのベストを羽織っており、めっちゃ可愛い!
ちなみに私は、入学の時に買ったままの指定シャツにサーモンピンク色のパーカー。
(もうちょっとオシャレした方が良いのかな......?)
「茜くんって、本当に椿芽のこと好きだよね〜」
「あはは......」
最初は男子の冷やかしや女子の嫉妬心の視線もあったが、数日経てばみんなそんな茜くんに慣れていった。
慣れって怖い......。
何人かの女子に「椿芽ちゃんって茜くんとどういう関係!?」とか「付き合ってるの!?」とか、数日間のうちに何十回も聞かれまくったのだが、私は会ったこともなければ、茜くんに対して少し苦手意識がある。
なんせ初対面で抱きつかれた挙句、気絶させられたのだから。
「てか、茜くんと椿芽って本当に会ったことないんだよね?」
「ないよ」
「うーん、茜くんって犬みたいだよね」
「あー......確かに」
犬。
そう、確かに犬っぽい。
視線、行動、距離感が全て真っ直ぐすぎる。
それだけならまだ良い。
問題は、私がその真っ直ぐさに毎回振り回されているということだった。
「あ」
なんて話していると、登校してきたらしい茜くんと目が合った。
瞬時にぱぁぁ!と満面の笑みになる茜くん。
そして、いつも通り抱きしめられる。これまでがセット。
これに慣れてしまった私も大概だと思う。
「椿芽、おはよ」
「あ、おはよう」
少し声が小さくなってしまった。
「お。恵美、今日も綾辻パワー貰ってんのか?」
「いやー、仲の良いカップルですなー」
通りかかった同じクラスの男子がニヤニヤしながら教室に入っていく。
真央に目を向けると、真央もすっと後ろに下がっている。
(待って!?見捨てないで!!)
「あの......茜くん」
「ん」
「教室入りたいから......その、離れてほしいな〜......なんて」
そう言うと、バッと離れてくれた。
(よし、ダッシュで教室に入ろう)
茜くんを避けてそのまま走る。席に滑り込むように座った瞬間、心臓がバクバクと音を立てる。
(セーフ......)
朝のホームルームが終わると教科書を取り出して、授業の準備を始めた。
―――ぼくがおおきくなっらたら、ぼくとけっこんして!
頭の中で誰かの声がした。
聞き覚えのある気がするが、はっきりと分からない。そのくせ、ひどく懐かしいのが腑に落ちなくてつい、眉間にシワが寄る。思い出せないもどかしさに寝返りを打つ。
―――つばめちゃん、おきようよ
とは言われてもそう簡単にはいかない。だって目覚まし時計のアラームは鳴っていないのだ。あのけたましくも忌々しい音が朝を知らせるまでは、一秒たりとも起きてやらない。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムの音に私はハッと瞬いた。
周りのみんながお弁当を出している。私だけ一限目の教科書を開いたままだ。
「あれ、もうお昼休み!?」
「椿芽、ずーっと寝てたよね」
前の席の真央が一限から四限までのノートを見せてくれた。
「ありがとう」
「どーしたの?寝不足?」
真央の言葉に首を傾げる。
「ん〜そういう訳じゃないんだけど......変な夢を見て」
「夢?」
夢の内容を思い出そうとしても、霧がかかったように思い出せない。何か大切な夢だったような......。
「どんな夢?」
真央に聞かれて、お弁当のゴムを外しながら首を捻る。
「それが思い出せなくて......う〜ん」
「思い出せないなら気にしなくても良いんじゃない?」
「そうかも」
そう答えたものの、胸の奥に小さな引っ掛かりを覚えた。
その時。
「椿芽」
もう聞き慣れてしまった声に頭を上げると、茜くんが立っていた。
今度はちゃんと距離を保って、手には焼きそばパン。
「一緒に食べよ」
「え?」
思わず間の抜けた返事をしてしまった。
「ここ座っても良いかな?」
真央ちゃんはニコニコと親指を立てている。
茜くんは真央ちゃんにありがとうと言って、近くの椅子を持ってきた。
「購買が混んでて、座るとこがなかったんだ」
「あ、そうなんだ......」



