それは、遡ること九年前。
家族で京都に訪れた時のこと。
気になる露店が出ていたので、親の手を離して露店の傍で眺めていたら、近くのベンチで年齢が同じくらいの男の子が泣いていた。
「だいじょうぶ?こけたのです?」
「......うっ......ひっく」
男の子は家族とはぐれてしまったようで、泣いていた。
ボロボロと涙を流す男の子の背中をさすり、団子屋で買ってもらったみたらし団子を一本、男の子に渡す。
団子を食べてようやく落ち着いたらしい男の子が涙を拭いて私を見る。
「ね、ねぇ......おなまえ、おしえて」
「つばめ!」
「つばめ......?」
「うん!」
男の子はふくふくとした柔らかいほっぺを赤く染めたと思ったら、ぐっと身を乗り出して言った。
「ぼくがおおきくなっらたら、ぼくとけっこんして!」
その言葉にいつの間にか戻ってきたらしいお父さんとお母さんが笑う。
「きゃぁぁぁ!これって、プロポーズ!?」
「坊や、おませさんだな〜!」
お父さんとお母さんは口元に手を当ててはしゃいでいる。
「つばめちゃん、ぼくのおなまえはね......」
男の子はコソッと顔を近づけて耳打ちしてきた。
「す......」
男の子の名前を呼ぼうとしたら、口元に手を当てられた。
「ほかのひとにはいっちゃダメだよ!ぼくとつばめちゃんだけの、ね!」
それから指切りをして、男の子とは別れた。
指切りをした小指から身体中にバチリと静電気が流れたような感覚になったが、昔のことだし一瞬だったので、顔も名前もよく覚えていない。
ただ、名前が長かったな〜くらいしか覚えていなかった。
それから月日が流れて、私は中学二年生になった。
一年生のころは色々あった。
両親とシスコン兄は、入学式と書かれた看板の前で大量に写真を撮っていたし、クラスで友達もできて毎日が楽しかった。
そして、二年生になった始業式の翌日、私のクラスに転校生が来たと言うので、クラスではその話で持ち切りだった。
転校生の子を見た女子が言うには「めっちゃイケメン」とのこと。廊下で盛り上がっていた。
教室に入ってきたのは金髪の子。なるほど、確かにイケメンだ。
教室の隅の席で頬杖をつきながらそんなことを思っていると、彼は一直線に歩いてきて抱きしめてきた。
「やっと............っ!!」
「え、え......!?」
「ずっと会いたかった............!!」
「え......あ......ちょ......と......」
彼は涙を流し、力いっぱい抱きしめる。
抱きしめる力が強くて骨が軋む。
新しい酸素が吸えなくて、視界が暗くなっていく。
彼を引き離そうとするが、どうやら逆効果だったようで、抱きしめ返してくれたと勘違いしたらしい彼はより一層強い力で抱きしめられ、私は意識を手放した。
誰かが必死に呼ぶ声がして、私はゆっくりと意識を取り戻す。
天井。白い蛍光灯。保健室だ。
頭がぼんやりしていて、状況がよく思い出せない。
保健室を出て教室に戻ると、転校生くんの周りに人だかりができていた。困惑している訳でもなく、ただ淡々と質問の答えを返しているだけに見えた。
近くにいた友達に板書のノートを見せて欲しいとお願いしていると、転校生くんが近づいてくる。
「えーっと......君の名前は?」
「今は恵美茜って名乗ってる」
転校生くんは恵美茜という名前らしい。
「恵美くん......」
「名前で呼んで欲しい」
「まぁ、それはさておき......とりあえず離れようか」
周りの女子達の視線が痛い......。
「やだ」
「やだかぁ......」
私の首元に顔を埋めて優しく抱きしめたまま動かない茜くん。
助けを求める目で友達に目線を配せると悲しきかな、「椿芽ちゃん、頑張れ!」という的外れな応援とグッドサインが返ってきた。
家族で京都に訪れた時のこと。
気になる露店が出ていたので、親の手を離して露店の傍で眺めていたら、近くのベンチで年齢が同じくらいの男の子が泣いていた。
「だいじょうぶ?こけたのです?」
「......うっ......ひっく」
男の子は家族とはぐれてしまったようで、泣いていた。
ボロボロと涙を流す男の子の背中をさすり、団子屋で買ってもらったみたらし団子を一本、男の子に渡す。
団子を食べてようやく落ち着いたらしい男の子が涙を拭いて私を見る。
「ね、ねぇ......おなまえ、おしえて」
「つばめ!」
「つばめ......?」
「うん!」
男の子はふくふくとした柔らかいほっぺを赤く染めたと思ったら、ぐっと身を乗り出して言った。
「ぼくがおおきくなっらたら、ぼくとけっこんして!」
その言葉にいつの間にか戻ってきたらしいお父さんとお母さんが笑う。
「きゃぁぁぁ!これって、プロポーズ!?」
「坊や、おませさんだな〜!」
お父さんとお母さんは口元に手を当ててはしゃいでいる。
「つばめちゃん、ぼくのおなまえはね......」
男の子はコソッと顔を近づけて耳打ちしてきた。
「す......」
男の子の名前を呼ぼうとしたら、口元に手を当てられた。
「ほかのひとにはいっちゃダメだよ!ぼくとつばめちゃんだけの、ね!」
それから指切りをして、男の子とは別れた。
指切りをした小指から身体中にバチリと静電気が流れたような感覚になったが、昔のことだし一瞬だったので、顔も名前もよく覚えていない。
ただ、名前が長かったな〜くらいしか覚えていなかった。
それから月日が流れて、私は中学二年生になった。
一年生のころは色々あった。
両親とシスコン兄は、入学式と書かれた看板の前で大量に写真を撮っていたし、クラスで友達もできて毎日が楽しかった。
そして、二年生になった始業式の翌日、私のクラスに転校生が来たと言うので、クラスではその話で持ち切りだった。
転校生の子を見た女子が言うには「めっちゃイケメン」とのこと。廊下で盛り上がっていた。
教室に入ってきたのは金髪の子。なるほど、確かにイケメンだ。
教室の隅の席で頬杖をつきながらそんなことを思っていると、彼は一直線に歩いてきて抱きしめてきた。
「やっと............っ!!」
「え、え......!?」
「ずっと会いたかった............!!」
「え......あ......ちょ......と......」
彼は涙を流し、力いっぱい抱きしめる。
抱きしめる力が強くて骨が軋む。
新しい酸素が吸えなくて、視界が暗くなっていく。
彼を引き離そうとするが、どうやら逆効果だったようで、抱きしめ返してくれたと勘違いしたらしい彼はより一層強い力で抱きしめられ、私は意識を手放した。
誰かが必死に呼ぶ声がして、私はゆっくりと意識を取り戻す。
天井。白い蛍光灯。保健室だ。
頭がぼんやりしていて、状況がよく思い出せない。
保健室を出て教室に戻ると、転校生くんの周りに人だかりができていた。困惑している訳でもなく、ただ淡々と質問の答えを返しているだけに見えた。
近くにいた友達に板書のノートを見せて欲しいとお願いしていると、転校生くんが近づいてくる。
「えーっと......君の名前は?」
「今は恵美茜って名乗ってる」
転校生くんは恵美茜という名前らしい。
「恵美くん......」
「名前で呼んで欲しい」
「まぁ、それはさておき......とりあえず離れようか」
周りの女子達の視線が痛い......。
「やだ」
「やだかぁ......」
私の首元に顔を埋めて優しく抱きしめたまま動かない茜くん。
助けを求める目で友達に目線を配せると悲しきかな、「椿芽ちゃん、頑張れ!」という的外れな応援とグッドサインが返ってきた。



