駅前のカフェを出た優花は、歩きながらそっと自分の服装を見下ろした。
披露宴で着ていたネイビーのロングドレスは、今はバッグの中に小さく折り畳まれている。
代わりに身につけているのは、柔らかなアイボリーのニットワンピース。
足元も、慣れないヒールから歩きやすいパンプスへ——。
その軽やかな装いは、優花自身の気持ちまでふっとほどいてくれるようだった。
(これで、ようやく自分らしくいられる。)
披露宴のドレスは“参列者としての役割”をまとわせた。
宏樹の前でも、緊張して背筋を張り続けなければいけなかった。
けれど今の服装は違う。
自然体の自分——友人としての相沢優花を、そのまま表現できる。
二次会の会場は、大通りから一本入った路地にひっそりと佇む小さなバーだった。
控えめな外観とは裏腹に、中からは楽しげな音楽と人々の声が溢れ出ている。
中へ入ると、受付には高校時代の友人たちが立っていた。
「優花、いらっしゃい! 美咲たち、まだ着替え終わってないから、先に飲んでてね!」
優花は笑顔で頷き、会場内へ視線を向ける。
照明は落とされ、カジュアルな洋楽が流れ、披露宴とはまったく別の空気が広がっていた。
学生時代の友人、会社の同僚、さまざまな人がテーブルを囲んでいる。
宏樹は——。
優花の目が、その姿を捉えたのは、バーカウンターの近くだった。
黒のシンプルなジャケット、濃いデニム。
スーツの堅さを脱いだ宏樹は、落ち着いた大人の男性そのもので、
肩の力が抜けたような柔らかさがにじんでいた。
(…こんな雰囲気も似合うんだ。)
友人グループの輪の中で談笑する彼を見て、優花の胸は小さく跳ねた。
優花が近づくと、恵理がすぐに気づいて手を振る。
「優花! やっと来た! そのワンピース、すっごく似合ってる。優花らしいよ」
「ありがとう。私も、二次会は早く着替えたくて」
輪の中に自然と加わると、談笑していた宏樹がふと話を中断し、こちらを向いた。
「着替え終わったんだね、相沢。うん…そっちの方が、雰囲気に合ってる」
披露宴の時よりも、少し無防備で、少し砕けた声音。
その言い方は、まるで—
(フォーマルな私より、この“普段の私”を好ましく思ってくれているみたい。)
胸が熱くなったが、優花は落ち着いて微笑んだ。
「宏樹もですね。スーツ姿も素敵でしたけど…今の方が、自然でいいと思います」
宏樹は照れたように目を細め、優花の隣の席を軽く指さした。
「ここ、ちょうど空いたところ。飲み物、何か頼む?」
そんなふうに席を示されるのは、披露宴よりもずっと自然で、
“友人としての距離”が同じ高さになったような感覚だった。
優花は、緊張を押し隠しながら、その隣に腰を下ろす。
フォーマルからカジュアルへの着替えは、
単に服装を変えるだけではなかった。
優花と宏樹の関係が、
「憧れの彼」から
「隣に座って話せる友人」へと
静かに、確実に切り替わっていく儀式——。
その始まりを告げる瞬間だった。
披露宴で着ていたネイビーのロングドレスは、今はバッグの中に小さく折り畳まれている。
代わりに身につけているのは、柔らかなアイボリーのニットワンピース。
足元も、慣れないヒールから歩きやすいパンプスへ——。
その軽やかな装いは、優花自身の気持ちまでふっとほどいてくれるようだった。
(これで、ようやく自分らしくいられる。)
披露宴のドレスは“参列者としての役割”をまとわせた。
宏樹の前でも、緊張して背筋を張り続けなければいけなかった。
けれど今の服装は違う。
自然体の自分——友人としての相沢優花を、そのまま表現できる。
二次会の会場は、大通りから一本入った路地にひっそりと佇む小さなバーだった。
控えめな外観とは裏腹に、中からは楽しげな音楽と人々の声が溢れ出ている。
中へ入ると、受付には高校時代の友人たちが立っていた。
「優花、いらっしゃい! 美咲たち、まだ着替え終わってないから、先に飲んでてね!」
優花は笑顔で頷き、会場内へ視線を向ける。
照明は落とされ、カジュアルな洋楽が流れ、披露宴とはまったく別の空気が広がっていた。
学生時代の友人、会社の同僚、さまざまな人がテーブルを囲んでいる。
宏樹は——。
優花の目が、その姿を捉えたのは、バーカウンターの近くだった。
黒のシンプルなジャケット、濃いデニム。
スーツの堅さを脱いだ宏樹は、落ち着いた大人の男性そのもので、
肩の力が抜けたような柔らかさがにじんでいた。
(…こんな雰囲気も似合うんだ。)
友人グループの輪の中で談笑する彼を見て、優花の胸は小さく跳ねた。
優花が近づくと、恵理がすぐに気づいて手を振る。
「優花! やっと来た! そのワンピース、すっごく似合ってる。優花らしいよ」
「ありがとう。私も、二次会は早く着替えたくて」
輪の中に自然と加わると、談笑していた宏樹がふと話を中断し、こちらを向いた。
「着替え終わったんだね、相沢。うん…そっちの方が、雰囲気に合ってる」
披露宴の時よりも、少し無防備で、少し砕けた声音。
その言い方は、まるで—
(フォーマルな私より、この“普段の私”を好ましく思ってくれているみたい。)
胸が熱くなったが、優花は落ち着いて微笑んだ。
「宏樹もですね。スーツ姿も素敵でしたけど…今の方が、自然でいいと思います」
宏樹は照れたように目を細め、優花の隣の席を軽く指さした。
「ここ、ちょうど空いたところ。飲み物、何か頼む?」
そんなふうに席を示されるのは、披露宴よりもずっと自然で、
“友人としての距離”が同じ高さになったような感覚だった。
優花は、緊張を押し隠しながら、その隣に腰を下ろす。
フォーマルからカジュアルへの着替えは、
単に服装を変えるだけではなかった。
優花と宏樹の関係が、
「憧れの彼」から
「隣に座って話せる友人」へと
静かに、確実に切り替わっていく儀式——。
その始まりを告げる瞬間だった。

