「なに?キスしたいん?」
そらしたはずの視線が、またあたしに向く。
今度は、まっすぐ。逃げ場なんて、どこにもない。
……あたし。
したいのかもしれない。
佐野と、キス。
そう思った瞬間、もう遅かった。
黙って、目をつむる。
自分でも驚くくらい、素直に。
次の瞬間、唇が重なる。
頭が、真っ白になる。
考える余裕なんてない。
離れたあと、佐野がぽつりと言った。
「あ、カップケーキ食べたんだわ」
……もう遅いよ。
そんなの。
佐野好みに作ったカップケーキは、これっぽっちも甘くなくて、あたしでさえ、苦いって思うくらいだった。
こんなの、よく食べられるよね。ちゃんと味見しとくんだった。
そう思ったけど、それも、もう遅い。
佐野と、キスしたいなんて。
こんなふうに、誰かを欲しいって思うなんて、今まで一度もなかった。
きっと、この先もないって思ってた。
こんな気持ち、知らずに生きていくんだって。
なのに。
「もっかい、していい?」
「……っ」
だめ、なんて。
もう、言えなかった。
甘い言葉なんて、ひとつもくれない。
好きだとか、かわいいとか、そんなの、何も言わないくせに。
それでも。
それでも、よかった。



