詩音と海と温かいもの

 ……っていう、割と切ない別れ方をしたはずなのに、二か月も経っていない五月の終わりに、私は匠海さんに電話をかけていた。


『はいはい、どした?』

「それがあ……大学がほぼ決まってえ」

『えっ、早くねえ?』

「……うん。内部進学のための模試は七月なんだけど、えっと四月に学力テストがあったの。それで成績上位者に先生が進路の確認をして、私は内部進学ほぼ確定なんだってさ。えっと、内定……内々定くらい」

『あっ、そう……』

「そういうわけだからちゅうしてほしいんだけど」

『いや、それはしねえけどさ』


 匠海さんは苦笑しながら答えた。勢いでいけるかと思ったけど、ダメだった。


『つっても、俺はまだちょっとばたついててさ。夏休みにうちに来いよ。大学の場所教えてくれ。そんで住むエリア決めよう』

「わかった!」



 夏休みが始まって数日後、匠海さんの休みに合わせて待ち合わせをした。


「会いたかった……!」

「俺も」


 ぎゅっと抱き合って見つめ合うけど、キスは無し。

 唇を尖らせたら、匠海さんは苦笑した。


「ダメだって」

「もう十八歳だよ」

「でもダメ。高校卒業したらな」

「ぶー」


 指を絡めて歩き出した。

 同じ速度で歩いてくれる匠海さんが、私はやっぱり大好きだった。

 匠海さんの部屋に着いてからも、ぴったりくっついたままスマホで地図を見た。


「この辺かな」

「詩音ちゃん、学校に行きづらくない?」

「電車一本だよ」

「行き帰りがラッシュと被るだろ」

「平気だって」

「この辺りの方が良くない?」

「匠海さんが遠くなっちゃうよ」


 あれこれ言いながら、地域を絞った。でもその後で匠海さんのパソコンで物件情報を見たら、高い!

 また地域を絞り直して、結局一日中地図と物件情報を見比べていた。



 そんな感じで、夏の間は匠海さんの休みに合わせて会っていた。

 美海と夜が受験生だから、川瀬さんのお家への帰省は遠慮しておいた。

 代わりに二人に、手紙とお菓子を贈っておいた。

 夏休みが終わったら模試の結果が返ってきて、大学への進学が決まった。

 その後は私はそんなに忙しくないけど、匠海さんは忙しいから、会うのは我慢。

 でも一緒に住む部屋を探さないといけないし、まったく会わないのは寂しいから、電話やメッセージのやりとりはしょっちゅうしていた。