夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。



腕の中ですやすやと寝息をたて始めた、愛おしい人。


それは寝息というよりは、この世界から彼女という存在が漏れ出していく、最後のため息のようにも聞こえた。
そっと顔を近づける。月光に照らされた彼女の肌は、もう向こう側のシーツを隠しきれていない。


きっともう、これ以上愛する人はいないだろう。
これから先、何十年生きるとしても、僕の心は一生、この十四歳の冬に囚われたままになる。


存在しないと思えないほどに温かい唇に、僕はそっと、最後のキスを落とした。


「⋯⋯愛してるよ」


その一言に、僕のこれまでの人生と、これから失うすべての未来を込めた。

彼女の唇からは、かすかにショコラスティックの甘い匂いと、冬の凍てつく空気の匂いがした。
彼女のまつ毛がわずかに震え、一筋の涙が枕を濡らした。


それが、彼女の意識が僕に返した、最後の返事だった。


彼女を抱きしめたまま、自分の意識をも深い眠りへと誘導し始めた。


僕が眠れば、彼女は消える。
僕が彼女を認識しなくなれば、彼女は自由になれる。


さよなら。蒼。