妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています

 打ち合わせが終わり、ルフェーヌは部屋へ帰ってくると、ベッドの上にワンピースが一着とストールが選んであった。
 ルフェーヌはワンピースを見ると笑顔になり、その服に着替えてディエゴとの待ち合わせ場所へ向かった。
 庭園は城の裏にあり、そのすぐ横は森になっている。ルフェーヌは庭園の入り口まで来ると、入り口の壁に寄りかかっているディエゴを見つける。
 ディエゴは白いワイシャツ、テーラードパンツで今日一日、同じ服装だが、床にはバスケットが置いてある。
 「ディエゴ様!」
 ルフェーヌがディエゴを呼ぶと、ルフェーヌに気づく。ルフェーヌは小走りにディエゴに近づく。
 「来たか。待っていたぞ。走らなくていいと言っているのに、可愛いヤツだな」
 ディエゴはルフェーヌの頭を撫でる。ルフェーヌは嬉しそうに目を細める。
 「服を着替えて来たのか。似合ってて可愛いぞ」
 ルフェーヌは桃色の可愛らしいワンピースにアイボリーの薄いストールを肩にかけている。
 「褒めてもらえて嬉しいです! ジョゼさんが選んでくれたの」
 ルフェーヌは嬉しそうにディエゴにワンピースのスカートの裾を持ち上げて見せる。
 「ルフェーヌは華やかで可愛らしい色も似合うのだから、今度は自分で選んでみろ」
 ルフェーヌはまだいつもの癖で落ち着いた色ばかり選んでしまう。
 「分かりました。そうします」
 ルフェーヌは明日の服は華やかで可愛い色にしようと決め、ディエゴと一緒に森へ向かう。

 城の美しい庭園を抜けると辺りには木々が生い茂っている。森には明かりがなく、暗い。木々が月明かりを遮っている。
 「暗いな、明るくするか」
 ディエゴは手をかざすと、辺りが明るくなる。ディエゴの小さい炎を明かりにして進む。ルフェーヌはディエゴの手の中で燃える炎を見つめる。
 「炎……」
 ルフェーヌは炎を灯すディエゴの反対側の腕の袖を握り、力を入れる。
 「大丈夫か?」
 ディエゴは袖を握られ、ルフェーヌに声をかける。
 「大丈夫よ……」
 ルフェーヌは不安げな表情でディエゴの炎を見つめている。

 森を少し進むと、昔倉庫として使われていた小屋が見える。小屋の辺りは開けており、森からのぞく夜空には満点の星空が広がっている。
 「これをルフェーヌへ見せたかった」
 「星空をですか?」
 ルフェーヌはディエゴが何故星空を見せたかったのかと疑問に思う。
 ディエゴは手をかざして手のひらを赤く光らせる。手のひらに赤く紋章が浮かび上がると、ディエゴの腕が赤い炎に包まれる。
 ディエゴが腕を振ると、細かく無数に光る七色の光が辺りを舞っている。夜空の星空とディエゴが出した光が幻想的な雰囲気を作り出す。星が細かくなり、ルフェーヌとディエゴの元へ降り注いでいるようだ。
 「綺麗……!」
 ルフェーヌは感激して辺りを見回す。
 「俺の火の粉だ。触れても燃えないから安心しろ」
 「ディエゴ様の火の粉はいろんな色があるのですね! すごく綺麗です!」
 赤色、橙色、黄色、黄緑色、緑色、紫色、紅色の七色の火の粉の光は強く発光し、発色が高く煌びやかに輝いている。
 まるで火の粉の星空の中にいるようだ。
 火の粉がルフェーヌの手のひらに落ちる。一瞬だけ熱を感じて手のひらに消えたが、あたたかさだけが残った。
 「あたたかい……」
 ルフェーヌは懐かしむような表情で手のひらに舞い落ちる色とりどりの火の粉を見ている。色一つひとつにディエゴの気持ちが詰まっているようだ。
 火の粉がルフェーヌの頭、肩、手へと落ちる。ルフェーヌはディエゴがルフェーヌを想う気持ちを全身で受け止める。
 ルフェーヌは幸せそうに七色の火の粉を見つめながら微笑み、いつまでも降り続く火の粉に手をかざして受け止めている。
 「ルフェーヌが俺を思ってピアノと歌を披露してくれただろ。そのお返しだ」
 「こんな素敵なお返しをもらえるなんて、一生の思い出だわ。ディエゴ様、ありがとう」
 ルフェーヌは火の粉の星空の中で満面の笑みをディエゴへ向ける。
 「ルフェーヌが心から喜んでくれて、俺は嬉しい」
 ディエゴはルフェーヌの頭を撫でるとルフェーヌは嬉しそうに笑う。
 「ルフェーヌ。マシュでも焼いてみるか? 野外で焼いて食べたりするのだろ?」
 ディエゴは用意してきたバスケットをルフェーヌに見せる。ディエゴはバスケットの中から袋を取り出す。白くてフワフワしているお菓子が入った袋をルフェーヌへ見せる。
 「焼いたマシュ食べたいです」
 ルフェーヌとディエゴは小屋の前に置かれている長椅子のような丸太の上に腰掛ける。
 ディエゴは用意してきた薪でたき火を起こす。ディエゴの炎魔法で簡単に火を起こし、辺りが暖かくなり、明るくなる。
 ルフェーヌはディエゴが串に刺してくれたマシュをたき火の遠くの地面に刺して焼いている。火から遠いため全然焼けない。
 「俺はたき火で炙らなくてもマシュを焼けるから、すぐに食べさせてやるよ」
 ディエゴは指でマシュを挟むとあっという間に外側に焦げ目が付いている。
 「あーん」
 ディエゴは笑顔でルフェーヌにマシュを挟んだ指を差し出す。ディエゴはルフェーヌへ焼きたてのマシュを食べさせようとしている。ルフェーヌは照れて戸惑っていると、ディエゴが言葉を付け足す。
 「俺の指は熱くないから安心しろ」
 ルフェーヌがまだ固まって戸惑っていると、ディエゴがルフェーヌを見つめて顔を近づける。
 「無理矢理食べさせられたいのか?」
 色香を含ませた声で囁かれ、一瞬で顔を赤くする。無理矢理食べさせられたい、されたい気持ちと、何をされるかという緊張でルフェーヌの頭がぐるぐると回っている。
 「たべます……」
 ルフェーヌは回っている頭で自分で食べる事を選んだ。
 「そうか。ほら、あーん」
 ルフェーヌは差し出されるディエゴの指を見る。親指と人差し指の間に挟まれ、美味しそうに焼かれたマシュ。
 ルフェーヌはどうやって食べればいいのか考えたが、食べないでいると強制的に食べさせられそうだ。
 ルフェーヌは勇気を出して、差し出されたマシュを食べる。ルフェーヌの口の中でディエゴの指の感触を感じると同時にあたたかく蕩けたマシュは焼いた香ばしさと甘さが広がる。
 「美味しい!」
 ルフェーヌは照れながらもマシュを食べて笑顔になる。ディエゴはルフェーヌがマシュを食べた後の自身の指を見る。ディエゴはマシュが溶けて指に付いている指を舐める。
 「甘いな」
 ディエゴは指を舐めながらルフェーヌを見つめる。ルフェーヌは照れてディエゴから視線を外すと、ディエゴが炎魔法で作ったたき火が視界に入る。
 ルフェーヌはたき火の炎をじっと見つめている。この赤く揺らめく炎とディエゴ。昔どこかで見た事がある気がする。
 ルフェーヌはたき火を眺めながら、無意識に呟く。
 「インフェルノ……」
 「いま、何と言った?」
 「わたし、いま何か言ったの?」
 ディエゴは聞き返すが、ルフェーヌ自身も分かっていない。ルフェーヌはもう一度、炎を見つめる。何か、大事なことを思い出せそうな気がする。
 ルフェーヌは瞬きをしないで炎の揺らめきを見つめている。