妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています

 数時間後。ルフェーヌは昼食前になる頃にディエゴの執務室に呼ばれ、ディエゴの執事と一緒に足を運んだ。執事がノックをして執務室へ入る。執事はルフェーヌを案内するとすぐに執務室を出て行った。
 ルフェーヌはディエゴと二人きりになる。何を言われるのか不安に思い、扉の前で身を縮めている。
 「こっちに来い。お前はそこが好きなのか?」
 ルフェーヌはまた扉の前に立っている事を指摘され、書物机を挟んでディエゴと向かい合う。ルフェーヌはディエゴを見ずに床を見つめている。
 「お前は俺が嫌いなのか?」
 唐突にルフェーヌを責めるような凄みを効かせる声で質問され、ルフェーヌは目を見開く。
 「何のことですか?」
 ルフェーヌはディエゴが何を言われているか分からない。
 「とぼけるな。俺の頭痛と耳鳴りはお前の仕業だろ」
 ディエゴは自分の頭痛と耳鳴りはルフェーヌが魔法を使って起こしているものと思っている。ディエゴはルフェーヌが魔法を使えない事を知らない。
 「わたし、そんなことしていません!」
 ルフェーヌ自身を不快に思って症状を起こしているのならば分かるが、魔法を使って症状を起こしていると言われてルフェーヌは声を大きくして否定する。
 (わたしは魔法が使えないのに、何でそんなことを言うの?)
 魔法を使いたくても使えない悲しみが押し寄せてくる。ルフェーヌは悲しくなり、大きな瞳に涙が浮かんでくるのを感じる。零れてしまわないように堪えている。
 ディエゴはルフェーヌの今までで一番大きな声に驚く。ディエゴは席を立ち上がり、ルフェーヌに近づく。
 「これを受け取れ」
 ディエゴはルフェーヌへ白紙を渡す。ルフェーヌは涙を浮かべながら白紙を受け取ると、ディエゴは穏やかな声で話し始める。
 「お前を呼んだのは一緒に同行してほしい公務があるからだ」
 「わたしがディエゴ様の公務にですか?」
 ルフェーヌは不快にさせているのに一緒に公務へ行っていいのかと不安に思う。
 ルフェーヌは白紙を見ていると、ペンを走らせているかのように焦げ付いた文字が書かれていく。
 「詳しい内容はそこに書いておく。後で確認ーー」
 「すごい! わたし、初めて見たわ!」
 ディエゴが白紙に書かれた事を簡潔に説明しようとしたが、ルフェーヌの声にかき消される。ルフェーヌは幼い子供のようにディエゴが使った魔法に感動する。
 「誰でもできるだろ」
 ディエゴは事実を返答する。
 ディエゴはサインや公式文書以外は直筆ではなく、この魔法を使って文字を書いている。この魔法は一般的で炎属性ならば誰でも使える簡単な魔法だ。
 「そうなんですね、ごめんなさい」
 ルフェーヌは当たり前の事にはしゃいでしまったのを謝罪して表情を曇らせる。
 「お前、感情が忙しいヤツだな」
 泣きそうになっていたと思えば、目を輝かせてディエゴの魔法に感動をする。ディエゴは柔らかく笑い、ルフェーヌと視線を合わせる。
 「そうやって笑っていればいいんだ」
 「え?」
 ルフェーヌはディエゴから思いもしない言葉をかけられて驚き、ディエゴが言った言葉のそのままを疑問に思う。ルフェーヌは言葉の意味は分かるのに、言われている意味が分からない。
 「俺は少し苛立っていたのかもしれない」
 ディエゴはルフェーヌから視線を逸らして申し訳なさそうな表情をする。
 普段から抑えられない苛立ち。ディエゴの中でそれがくすぶっている。ディエゴ自身に自覚はあるが、それを抑える事が難しい。
 ディエゴは落ち着いた声でルフェーヌをここへ呼んだ目的を話す。
 「お前をここに呼んだのは、慈善活動で孤児院へ行く予定があるからだ。その公務へ一緒に同行してほしい。お前は母国で慈善活動を熱心に行っていただろ?」
 「ええ、慈善活動をしていました。でもわたしがご一緒してご迷惑ではないのですか?」
 「迷惑なら頼まない。俺の苛立ちの事なら自分で対処する」
 「ディエゴ様はわたしが不快なのでは?」
 「そんな訳があるか」
 ルフェーヌは不快を否定される。ディエゴが自分を不快と思っていなかった事が嬉しい。ルフェーヌの気持ちは明るくなっていく。
 「嬉しい。それを聞いて安心しました。ずっとディエゴ様へどう接したらよいのか分からなくて緊張いていたのです」
 食堂での事を思い出す。ディエゴの魅力の一つでもある威圧感がルフェーヌを萎縮させていた。
 ルフェーヌはディエゴの元へ嫁いできてまだ一ヶ月も経っていない。
 毎日、食事で顔を合わせるようになって無言のまま食べ進める二人。
 ルフェーヌは無言のままも気まずいと思っていたが、純粋にディエゴと話したいと思っていた。ディエゴへ何を話そうか、これを話したら良くないかと考えてディエゴを気にしすぎるあまり緊張をしてしまっていた。
 「そうか。今のように話してくれたら問題ない。お前ならいつでも俺に声をかけてくれて構わない」
 「はい、ありがとうございます」
 ルフェーヌはディエゴの言葉に安堵と共に嬉しくなり感謝を伝える。自然とルフェーヌから微笑みが零れた。
 「そうだ」
 ディエゴは満足そうに微笑むルフェーヌの頭を撫でる。ルフェーヌは頭を撫でられ、照れて頬を染める。
 「予定より時間は早いが昼食へ一緒に行くか。腹は空いているか?」
 「お腹空いてます! パイロープのお料理は複雑で高級な味がして美味しいですね。わたしの国では素朴というか食材の味を生かした料理が多かったですよ」
 「そうか。ならば今度そのような料理も作らせよう」
 ルフェーヌは勇気を出してディエゴへ雑談を話した。このような会話ができたのが嬉しく、ルフェーヌが微笑むとディエゴも微笑む。
 二人は話しながら横並びになり、一緒に食堂へ向かった。