妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています

 城内のエントランスへ入ると侍女と思われる一人の女性が立っている。
 「あとは頼んだ」
 侍女はお辞儀をしてその場を離れるディエゴを見送る。
 ルフェーヌはその女性に連れられ、自室になる部屋へ案内される。
 天蓋があり、シーツにシワ一つなく綺麗にベッドメイクされたクィーンサイズの広いベッド。
 窓の内側に飾りのレースカーテンがある、繊細で豪華なカーテン。
 美術館に置かれていそうなアンティークの調度品。
 目を見張る豪華な部屋だ。今日からここはルフェーヌの部屋になる。ルフェーヌはまだ熱を持った頭で部屋を見渡す。侍女にこれからの予定を聞くが頭に入ってこない。
 ルフェーヌは日が暮れた頃に侍女が部屋へ運んできた早めの夕食をとる。ルフェーヌはぼんやりとして、パンを少しちぎって食べただけで夕食にはほとんど手をつけなかった。
 夕食が終わると複数人のメイドたちがルフェーヌの部屋へやってくる。
 侍女とメイドたちはディエゴとの夜に向けてルフェーヌの準備を進めていく。準備されているルフェーヌは抵抗せず、されるがままだ。
 ルフェーヌは入浴を済ませて部屋の鏡台の前に座り、鏡に映る自分を見ている。
 綺麗にまとまり、梳かすと砂のようにすべり落ちるプラチナブロンドとエメラルドグリーンの髪。蒸気した頬はもう少し赤みを乗せるように薄化粧をされていく初心な幼顔。バラの香りが付いた高級石けんで洗われた柔らかい素肌。
 見慣れているはずの自分なのに、別人のように見えるのは何故だろう。
 ルフェーヌは鏡に映る自分に緊張していく。この姿でディエゴと夜を過ごす。そう思うだけで鼓動が早くなっていく。
 嫁いできたばかりのルフェーヌがこの国で初めて過ごす夜。結婚相手であるディエゴの部屋へ呼ばれた。ルフェーヌは緊張と不安でどうにかなりそうだった。

 陽はすぐに暮れて夜になっていた。
 夜が深まる前のまだ早い時間。ルフェーヌは白いシースルーのネグリジェを着て、その上から白いガウンを羽織っている。ルフェーヌはその姿で侍女に案内され、ディエゴの寝室へ向かう。豪華な廊下は人払いをされていて、誰ともすれ違わなかった。
 ルフェーヌはこのような服装で部屋の外を歩いた事がないため、ガウンを羽織っていても恥ずかしさでいっぱいになる。

 侍女に連れられ、ディエゴの寝室の前までやってきた。
 侍女は扉をノックをして声をかけると、部屋の中からディエゴの声がする。ルフェーヌを部屋まで連れてきた侍女を下がらせ、ルフェーヌへ部屋に入るよう声をかける。ルフェーヌは部屋に入り、扉をそっと閉める。薄暗い室内でベッドに腰掛けているディエゴの姿が見える。
 ルフェーヌは白いシースルーのネグリジェから肌が見えないようにガウンの襟元をキツく押さえて下を向いている。
 ルフェーヌは男性との経験はなく、男性と付き合った事もなく親しい友人もいない。男性とは挨拶を交わす程度しか接した事がなかった。これから起こる事を何も知らない。知識もほぼなく、女性たちの会話に出てくる口づけを交わしたその先の事はほとんど知らない。
 ルフェーヌはどうしていいか分からず、襟元をさらにキツく押さえて眉根を強く寄せ表情をこわばらせる。
 扉の前から動かずに薄暗い室内で立ち尽くしていると、ディエゴの顔が間近にあった。
 「きゃ……!」
 ルフェーヌはディエゴにお姫様抱っこをされる。ルフェーヌは宙に浮いた事に驚いていると、柔らかく弾力のあるキングサイズのベッドに身体を弾ませる。
 ルフェーヌはディエゴに迫られ、逃げ場をなくしてベッドに押し倒される。緩く結ばれていたガウンの紐は解け、襟元が開く。ルフェーヌの女性らしい胸元がわずかに現れる。
 緊張で胸元を隠す事もできないルフェーヌは見下ろしてくるディエゴを不安げな瞳で見つめる事しかできない。
 「お前を俺のものにしてやる」
 ルフェーヌはディエゴに囁かれ、鼓動を激しくする。破裂しそうなほど強く鳴る心音が頭にも響いてくる。顔は一瞬で熱を帯びて紅潮している自覚がある。
 部屋は薄暗く、ディエゴの顔はよく見えない。ディエゴはルフェーヌに覆い被さり、顔をゆっくり近づけてくる。
 キスされる。
 ルフェーヌは瞳と唇を固く閉じる。
 ルフェーヌとディエゴの唇が重なりそうになった時ーー。
 「ぐっ……!」
 ディエゴは右手で頭を押さえると、苦しそうな表情を見せる。
 「頭が……」
 ディエゴは突然頭が割れそうなほど激しい頭痛に襲われる。ルフェーヌはディエゴが苦しんでいるのを見て焦り、困惑する。
 (どうしよう……)
 ルフェーヌは先代当主パーティーの時と同じような事が起きて動揺している。
 「お姉様、あたくしに何かしてないわよね?」というアデルの言葉がルフェーヌの脳内で蘇る。「お母様が亡くなったのはお姉様のせいよ!」と、母が亡くなったのを自分のせいと言われたアデルの言葉と繋がってしまう。
 (わたしのせい?)
 同じような事が起こり、自分のせいでディエゴが頭痛になったと思い困惑している。
 「あの……」
 ルフェーヌは何と声をかけたらよいか分からず、苦しむディエゴを見ているしかできない。
 「お姉様といると本当に不快だわ!」頭痛の苛立ちと不快さに顔を歪めるアデルとディエゴの姿が重なる。
 お飾りとはいえ、自分がいることで婚約者にも不快な思いをさせてしまっている。
 「ごめんなさい!」
 ルフェーヌはここに来て一番大きな声で謝罪しながら、ディエゴの部屋を逃げ出した。