妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています

 ルフェーヌが支援課慈善係を訪れてから数日後。ルフェーヌへ一通の手紙が届いた。
 その手紙にはルフェーヌがパイロープ国へ嫁ぐ前に小児病院への訪問してほしいと、病院長からの依頼だった。入院している子供たちがどうしてもルフェーヌに会いたいという内容だった。
 手紙は慈善係へ送らないでルフェーヌ宛に届いている。切実な願いであると受け取ったルフェーヌは輿入れの準備で忙しい中、時間を作って小児病院へ向かった。

 ルフェーヌは一人で風力車に乗り、三時間ほどかけて小児病院へやってきた。小児病院は国の南側に位置する山間部にある小さな小児病院だ。
 病院は小規模で十床ほどである。木造の古びた病院には主に一般庶民の子供たちが入院している。
 入院している子供たちのほどんどは原因不明の病で長期入院をしている。この小児病院では子供たちの症状の経過観察と共に子供らしく日常生活を送れる様に配慮されている。
 病院へ着き、風力車が停車する。窓からは病院長をはじめ、数人の医師やナースたちがルフェーヌを出迎えているのが見える。
 ルフェーヌは風力車を降りると、病院長が挨拶をする。
 「ルフェーヌ王女様。お忙しい中、貴重なお時間を子供たちのために割いていただき、誠にありがとうございます」
 ルフェーヌは初老の柔和な印象を受ける病院長とにこやかに握手をする。
 「とんでもございません。お手紙をありがとうございました。子供たちに会えるのを楽しみにしておりました」
 ルフェーヌと病院長が挨拶をしていると、寝間着を着た五歳くらいの女の子がルフェーヌへ駆け寄ってくる。
 「あ~! おひめさまだぁ!」
 ルフェーヌは女の子から羨望の眼差しを受ける。いつもその眼差しを受けるのはアデルだ。
 ルフェーヌはその眼差しに慣れていないのと謙遜もあり、女の子の気持ちを素直に受け止められずに眉根を寄せる。
 「お出迎えをありがとう」
 ルフェーヌは屈んで女の子に目線を合わせてお礼を伝える。
 女の子が駆け寄ると五人ほどの子供がルフェーヌの元へやってきた。ルフェーヌは十二歳~三歳くらいの男女の子供たちに囲まれる。
 その輪から少し離れた場所から七歳くらいの男の子が腕を組んでルフェーヌを睨みながら口を開く。
 「王女様がまほうを使えないってほんとかよ。だからおれたちも使えないんじゃねえの? みんな思ってるぜ、何もできない無能だって」
 「こら! なんて事を言うんだ。王女様、大変申し訳ございません」
 少年は病院長に怒られると、病院内へ入ってしまった。病院長は何度も頭を下げてルフェーヌに謝る。
 病院長の話によればあの少年は二週間前に病院へやってきたそうだ。外を元気に遊び回る子供だったが、病が発症して魔法もほとんど使えなくなってしまったらしい。
 「いいえ、お気になさらないでください」
 少年が言う事は本当の事なので否定できない。王室は伏せているが、ルフェーヌが魔法を使えない事は国民の間で周知の事実となっている。
 王室を通して正式に発表している訳ではないので、ハッキリと魔法が使えないとは言えない。
 大人は気を遣って言わないだけで、本当は少年のように思っているはずだ。
 ルフェーヌは心を暗くするが、その表情は見せなかった。

 ルフェーヌは病院長に先程の少年の病室をたずねるとその場所へ向かう。
 少年は自分のベッドの上でシーツを被って丸まっている。ルフェーヌはベッドのそばに立ち、静かに声をかけると話し出した。
 「生きているとつらいことや悲しいことがたくさんあると思う」
 ルフェーヌはシーツを被り、丸まっている少年に触れる。
 「わたしはつらく悲しいことを知っているから、少しでもみんなの力になりたくてここにいるのよ」
 ルフェーヌはそれだけ言うと病室を出ていく。
 当初の予定通りルフェーヌが自費で購入した児童書、学習書、おもちゃなどを寄付をして各階の病室を訪れて子供たちと会話をする。
 ルフェーヌは子供たち一人ひとりと話をした。最後に病院長と病院への今後の支援についての話をして訪問を終えた。
 ルフェーヌは出迎えと同じく、病院長や職員、子供たちに見送られている。
 風力車へ乗り込もうとすると、先程の少年がルフェーヌへ駆け寄る。少年はルフェーヌから視線を逸らして小さく呟く。
 「さっきはごめん」
 ルフェーヌは屈んで少年に目線を合わせる。
 「遠くで見守っているからね」
 ルフェーヌは優しく微笑むが少年は目線を合わせなかった。
 出迎えの時にルフェーヌへ駆け寄ってきた女の子とその後ろに子供たちがルフェーヌの元へ寄ってくる。その女の子が代表してルフェーヌへ手紙を渡す。
 「おひめさま! これ、みんなで書いた手紙なの。読んでね!」
 少女は満面の笑みでルフェーヌへ手紙を渡す。その後ろにいる子供たちも笑っている。少年は視線だけでルフェーヌを見ている。
 「ありがとう。大切に読むね」
 ルフェーヌは手紙を受け取り、風力車へ乗り込むと子供たちは手を振って見送ってくれる。ルフェーヌは小さく手を振る少年の姿も見られて微笑み、子供たちへ手を振り返す。

 ルフェーヌは子供たちからもらった手紙を読み始める。手紙の文字は白紙にえんぴつで一文字ずつ子供たちが交代で書いたようで、ひらがなで書かれた文字は一文字ずつ個性が出ている。
 手紙には『ルフェーヌおうじょさま、会いにきてくれてありがとう』と白紙を横向きにして大きく書かれている。
 ルフェーヌは微笑み、手紙を封筒に入れて本を開く。ルフェーヌは一人移動の時にいつも持ち歩いている本に手紙を大事に挟んだ。