転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜

 残念ながら顔と名前は思い出せないが、同世代の《緑の民》の少年で、前世のセレスティアをいじめてくる子がいたのだ。

 もっとも、いじめと言っても大したことはなく。言われたのは『ブス』とか『バカ』とか、そんな子供じみた悪口くらい。
 なので前世のセレスティアはまったく相手にしていなかった。
 まぁ、ちょっとはムカッとする時もあったけれど。

 ある大猟の日。ちょうど火の番をしていた前世のセレスティアは、やってきた少年に山肉の煮込みをよそってあげた。

『はい。あと、これ』

『魚の串焼き? オレ、くれなんて言ってないけど?』

『わたしが捕まえた一番大きいやつ、特別にあげる』
 
 そう言って魚の串焼きを押しつけるように差し出せば、少年は目を丸くしてブツブツとなにかを呟きはじめた。

『え。オレにだけ、特別に……? おま、お前、まさかオレのこと……』

『いらないなら、無理にとは言わないけど』

『いいや、食う! 骨まで全部食う! だから、よこしやがれ!』

『えぇ? さすがに骨は取ろうよ。喉に引っかかったら痛いよ』

『うるせぇ! 食うったら食うんだよ! はぐっ! もぐもぐ…………んっ! いってぇ! 水! 水くれっ!』

『ほーら、言わんこっちゃない』

 前世のセレスティアとしては、いつも馬鹿にしてくる彼に大きな魚を自慢したかっただけなのだが、よほど美味な串焼きだったのだろう。
 それから少年の意地悪はぴたりとやみ、その代わり会うたびに『よ、よお……』と、なぜかモジモジ挨拶してくるようになったのだ。

(みんなで食べるご飯って、美味しくてあったかくて、幸せな気分になれるよねぇ。話したことない子とも、料理の話で自然に盛り上がれたりするし……)

 それだ!と、セレスティアは目を輝かせた。

「ぽーら。おとうしゃま、いつ、しゅっちょう、かえってくる?」

「そうですねぇ。領内視察と伺っておりますので、あと数日でお戻りになると思いますよ。詳しい日程は家令のジェラールが把握していますので、聞いてまいりましょうか?」

「んーん! わたすもの、あるから。あとで、カレイのおへや、いってもいい?」

「もちろんです。ではお食事が終わったら一緒に行きましょうか」

「うん! あとね、そのあと、ちゅうぼう、いきたいの!」

「厨房に、ですか? それはまた急になぜです?」

「んふふ。なーいしょ!」

 首を傾げるポーラに笑顔で答えたセレスティアは、残りの料理をペロッと平らげた。
 そして一度部屋に戻って支度をしてから、家令のジェラールのもとへと向かうのだった。