きみの春に、溶けていく

朔と言った男の人は、ナイフをポケットから出した。

「灯、ごめんな」

「危ない、それ」

私が近づこうとすると、ナイフを私に向けてくるので、条件反射で後ろに下がる。

「僕は、本気だ。灯に薬を飲ませた。灯は救われた。きっと……これから先の未来は大丈夫だ。でも僕は弱い。灯に忘れられた未来を生きることはできない……」

震える手で、首元にナイフを持っていく、朔。
ちょっとだけ皮膚にあたり、血が出たあたりで、私は朔からナイフを奪い取った。
刃の部分を持ったので、私の手からもポタポタと血が流れた。

「止めてっっ」

「なんで!! こんな世界はもう意味が無いんだ……灯に……好きって思われてない、忘れられた世界なんて。僕の弱さを許して欲しい」

「朔、朔、朔……」

何も思い出せない。
この人が好きかさえ。
でも、この心が言う。

「離れないで……生きていて、朔」

「灯っ」


お父さんが言った。
誰かの心を照らす存在になるようにと。

お母さんが言った。
弱さこそ守ってあげたいと。


何度、忘れてしまっても、刻まれているものがあるんだ。


”ここにあるよ”


「照らしたい、守りたい」


「え?」


「私は朔が好きです。大好きです……」

涙が出てくる。
理由なんて分かるわけない。

「僕も灯が好きだ!! 灯と生きていきたいよ」

抱きしめてくれた、その匂いがどこか懐かしい気がしたんだ。