きみの春に、溶けていく

夏の入道雲はどこまでも伸びて、そのうち雨の匂いが濃くなってきて夕立が降ってきた。

「雷もなりそうだ……! どこかで雨宿りしよう」

朔は私の手を取り、近くの商業施設に入った。

「ねぇ、朔。私たちさっきから色んな人にジロジロ見られてない?」

「はぁ? だって僕たちさっきデビューライブしたんだぞ。bihukaってあの人、一度歌手やめたことあったけど。今じゃ紅白の常連だぞ。知らなかったのか?」

「え、うそ?」

「うそじゃない」

「だから、みんなに注目されてるの?」

「あぁ、ROOTSはこれからもっとみんなに見られるようになる」

「でも、私、毎日記憶なくなっちゃうのに」

どうしたらいいか分からなくて、あわあわしていると、朔が手を取った。

「灯はROOTS、やりたくないか。やめたいか」

あの歌、あの音。私のとても大事な何かが”共鳴”した。

「見られてもいい! 変だって思われても。それでも私、朔とやりたい」

「じゃあ僕が、助ける。何度だって支えるから。一緒に頑張ろう」

雨宿りをして、ホテルに帰って寝た翌朝。

私はやっぱり全部忘れてしまっていたけど、一つだけ覚えていた。

それはROOTSの歌だった。

朔はそれをとても喜んでくれた。
私も喜んだ。これからはふたりで共有できることがもっとふえていくかもしれない。

そんな希望に満ちていた夏の終わりだった。