「さ、そろそろ帰るか」

護くんの言葉に私は頷いて、二人で駅に向かって歩き出す。

護くんと私は路線は反対方向だけれど、駅まで行くのは同じ。

駅で解散になるのは、二人とも当たり前のように察していた。

しかし、カフェから駅の丁度中心くらいの場所で護くんが突然足を止めた。

すぐに気づいて振り返った私が見たのは、何故かどこか苦しそうな護くんの表情だった。

そんな苦しそうな表情のまま、護くんは私の名前をもう一度呼ぶ。




「想代」




「護くん……? どうかした?」




「俺は……」




その時、何かを言いかけた護くんの瞳が驚いたように大きく見開かれた。

護くんの視線は私の後ろの方向を見ていて、私も反射的に反対方向を振り返った。





「護」





護くんと顔を合わせて名前を呼ぶのは、スーツ姿がよく似合っているスタイルの良い男性。

派手すぎないのに高級感のあるスーツはその男性の雰囲気にぴったりで。

その男性は私の勤める会社の社長、本間 史桜だった。