七月七日の別れから、夏の空は青く高く、蝉の声だけが校庭に響く日々が続いた。
由埜華は高校生活に徐々に慣れ始め、友達と笑いながら授業や部活をこなしていた。
でも、どれだけ楽しい時間を過ごしても、心の奥には青郎の存在が色濃く残っていた。
友達との恋愛の話や噂話も、由埜華にとってはどこか遠い世界の出来事のように思えた。
誰かが好きだと話している横で、心の中ではただ一人の名前が浮かぶ。
「私……やっぱり、青郎以外に誰も好きになれない」
その事実に気づいたとき、由埜華は胸がぎゅっと締めつけられるのを感じた。
恋愛の楽しさやドキドキは、青郎の存在を抜きにしてはもう感じられない自分がいた。
部活後の体育館で汗を拭きながら、由埜華はふと思う。
「青郎も、今頃は遠くで頑張ってるんだろうな……」
想像するだけで胸が痛む。
それでも、心のどこかで「頑張れ」と応援する自分がいる。
好きだからこそ、相手の幸せを優先したい――そんな矛盾した感情が、由埜華の心を占めていた。
夏休み中、青郎から連絡が届く。
彼は別の女の子と付き合い始めたという知らせだった。
由埜華は一瞬、胸がざわつき、手が震える。
でも、青郎の幸せを願う気持ちが、喉の奥でその不安を押し戻す。
「……青郎が幸せなら、私も頑張れる」
しかし、数日後、由埜華のもとに届いた報告は意外なものだった。
青郎はその新しい関係を続けられず、すぐに別れたというのだ。
理由は簡単だった――由埜華のことが忘れられなかったから。
由埜華はその知らせを聞いて、胸がぎゅっと熱くなるのを感じた。
「やっぱり、私だけじゃない……青郎も同じ気持ちだったんだ」
嬉しさと切なさが同時に押し寄せ、涙が自然に頬を伝う。
でも、それは寂しい涙ではなく、心の奥にある確かな絆を再確認する涙だった。
日常は相変わらず忙しかった。
授業や部活、友達との笑い声、文化祭や体育祭の準備――
どれも充実しているけれど、ふとした瞬間に思い出すのは、青郎の笑顔や手のぬくもりだった。
冬の教室で机の下で手を握り合った日、修学旅行での甘い時間、そして七夕での別れ――
思い出すたびに、胸がじんわりと熱くなる。
ある日、由埜華は自室でノートを開いた。
そこには青郎との思い出を書き綴った日記が並ぶ。
「今日は……少し寂しかったけど、青郎のことを考えると元気が出る」
「遠くにいても、私たちの気持ちは変わらないんだ」
秋になり、涼しい風が校庭を吹き抜ける頃、由埜華はふと気づく。
「私の好きって……やっぱり青郎だけなんだ」
胸の奥で、これまでの切ない時間がすべて確かな意味を持っていることに気づく。
誰かと付き合おうと試みても、心は自然と青郎に戻る。
それが、青春の痛みと同時に、愛の強さを教えてくれた。
青郎もまた、自分の生活やサッカーに打ち込みながら、由埜華を忘れられないでいた。
新しい出会いや恋も試みるけれど、心の中心にはいつも由埜華がいる。
その事実が、互いにどれほど特別な存在かを再認識させる。
夜、由埜華は窓の外を見上げ、静かに呟く。
「遠く離れていても、青郎は私の中で特別な存在……これからもずっと」
青郎もまた、どこか遠くで同じ空を見上げながら思う。
「由埜華だけは、俺の中で変わらない……」
――こうして、別れた後も青春は続く。
でも二人の心は、どこにいてもお互いを中心に回っている。
誰かを好きになろうとしても、互いの存在が邪魔になるわけではなく、むしろ人生の指針となるものだった。
運命はまだ二人を試すかもしれない。
でも、互いの心に確かに残るこの想いこそが、二人を結びつける。
別れた時間さえも、二人にとってはかけがえのない青春の一部となっていた。