夏の太陽が照りつける七月七日、高校の校庭には蝉の声が響き渡る。
由埜華は制服の胸元をそっと整え、深呼吸をした。
今日は、青郎と会う最後の日になる――そんな予感が、胸の奥でずっとくすぶっていた。
高校に進学して初めての夏休み。
由埜華は新しい生活に少しずつ慣れてきていたけれど、心の奥では青郎のことがいつもちらつく。
サッカー部で活躍する青郎は、進学先でもチームの中心として頑張っているだろう。
その姿を想像するだけで、胸が締めつけられる。
放課後、二人は校門の前で待ち合わせをしていた。
青郎はいつも通りの笑顔で手を振る。
でもその目には、どこか切なさが漂っていた。
「由埜華……」
青郎の声は少し震えていた。
由埜華はその声に心がざわつく。
「うん、青郎……」
二人の間には言葉にならない緊張が流れる。
歩きながら、二人は無言でしばらく歩いた。
青郎が口を開く。
「……遠距離、辛いよな」
由埜華は小さく頷く。
「うん……でも、青郎のためだから、応援したい」
その言葉に、青郎は少しだけ笑顔を見せるが、すぐに俯いてしまった。
校庭のベンチに座り、二人は手を握り合う。
手の温もりが、胸にじんわりと沁みる。
でも、それだけでは足りない。
由埜華は青郎の顔を見上げ、震える声で言った。
「青郎……私、やっぱり……好き」
青郎の目が一瞬大きく開き、そして笑みがこぼれた。
「俺もだよ……由埜華。だから……」
そう言って、青郎は少し遠くを見る。
「お互い、遠くに離れるけど……お互いを思って別れよう」
由埜華の胸は張り裂けそうになる。
「う……うん……わかった……」
涙がこぼれそうになるのを必死に堪える。
二人はぎゅっと手を握り合い、最後の時間を静かに過ごした。
夕暮れが校庭をオレンジ色に染め、影が長く伸びる。
青郎がそっと由埜華の手を握り直す。
「もし……成人式でさ、あお?その時、まだお互いが好きだったら……その時は、結婚前提で付き合おう」
由埜華はその言葉に驚き、そして胸が熱くなる。
「……うん、約束する」
その言葉を言うことで、心に少しだけ希望が灯った。
二人はその後も、少しの時間を一緒に歩く。
歩くたびに感じる手の温もり、笑顔、言葉にならない気持ち。
それらすべてが、永遠に続かないことを知っているからこそ、余計に切なく、愛おしい。
帰り道、由埜華は心の中でつぶやく。
「青郎……これからも、ずっと応援してる。離れていても、私たちの気持ちは変わらない」
その日、夕陽が沈む頃、二人は最後の抱擁を交わす。
甘くて、切なくて、胸が痛い――でも確かな愛の証。
その温もりは、成人式での再会の約束として、二人の心に深く刻まれた。
夜、家に帰った由埜華は日記を開く。
「今日は……寂しいけど、幸せな一日だった。青郎と過ごした時間、絶対に忘れない」
涙が頬を伝うが、心は少し軽くなった。
遠く離れても、再会を信じる力が、由埜華の中で芽生えたのだ。
――こうして高校1年の夏、二人の恋は別れという形をとったが、未来の約束と絆は揺るがない。
青春の甘く切ない時間は、こうして静かに、しかし確かに積み重なっていった。