冬の朝、冷たい風が校門を吹き抜ける。
由埜華は厚手のコートに身を包み、制服の上からマフラーをぐるりと巻きつけた。
息を吸うと、空気の冷たさが肺の奥まで届く。
中学3年生、受験の季節が本格的に始まる冬。
教室の中では、友達が過去問や参考書を開き、鉛筆の走る音が響く。
由埜華はノートを広げる手を止め、ふと窓の外を見た。
冬の空は澄んでいて、遠くの校庭まで見渡せる。
でも心は晴れやかではなかった。
青郎の進学先を知ったのだ。
彼はサッカーのために、遠くの高校に進むという。
「……そうか、青郎は、サッカーの未来のためなんだ」
由埜華はそう自分に言い聞かせる。
頭では理解していても、胸の奥ではぽっかり穴が開いたような喪失感が広がる。
「青郎と、これからも一緒にいられるのかな」
その不安が、勉強する手を鈍らせる。
ある日の理科の授業中、二人は教室の後ろの席に座っていた。
授業は静かで、先生が黒板に数式を書き連ねる。
しかし由埜華の心は別のことに集中していた。
「青郎、ちょっとだけ、面接練習しようか」
小声で言い、机を少しずつ傾けて、誰にも聞かれないように練習を始める。
「えーと、志望理由は……」「由埜華、もう少し抑えて話してみて」
二人だけの小さな声と、ペンのカチカチという音だけが教室に残る。
由埜華は青郎の横顔をちらりと見る。
集中している彼の眉間に少し皺が寄る。
その姿を見ると、胸が締め付けられるように痛くなる。
「遠くに行ってしまうんだ……でも、応援したい」
その矛盾した気持ちを、由埜華は必死に抑えた。
放課後、図書室で勉強する二人。
机の上には参考書や問題集が広がるが、二人の手は自然に重なっていることもある。
互いを見守るように手を添え、分からない問題を教え合う。
その温もりが、どれほど安心できるか、由埜華は心で噛みしめた。
「青郎、受験頑張ろうね」
「由埜華もな。二人で乗り越えよう」
言葉は短いけれど、心は互いをしっかり結びつけていた。
遠くに離れることへの不安も、少しだけ和らぐ。
それでも夜、自室で一人になると、寂しさが押し寄せる。
「青郎がいない高校生活……私、大丈夫かな」
年末が近づくと、二人の会話も少しだけ慎重になる。
LINEや休み時間でのやり取りは、相手を傷つけないよう、気遣いで満ちている。
それでも、短いメッセージ一つでも心が温かくなるのを感じる。
冬休み前の最後の授業日。
由埜華は青郎と教室で並び、静かに手を握った。
「遠くに行っても……」
「うん、忘れない。俺たちは大丈夫」
二人の目が合い、言葉にしなくても伝わる信頼と絆。
それは、夏の秘密の約束、冬の机の下での手繋ぎ、そして修学旅行の甘い時間を経て積み重なったものだった。
窓の外には、冬の柔らかい夕陽が差し込む。
教室の中の空気は、受験勉強の緊張感と、二人だけの甘く切ない空気が混ざり合う。
由埜華は心の奥で静かに決意する。
「青郎のこと、ずっと応援する。どんなに離れても、この気持ちは変わらない」
こうして、中学3年の冬、二人の恋は遠距離への不安と覚悟を抱えながら、静かに次のステージへと進んでいった。
由埜華は厚手のコートに身を包み、制服の上からマフラーをぐるりと巻きつけた。
息を吸うと、空気の冷たさが肺の奥まで届く。
中学3年生、受験の季節が本格的に始まる冬。
教室の中では、友達が過去問や参考書を開き、鉛筆の走る音が響く。
由埜華はノートを広げる手を止め、ふと窓の外を見た。
冬の空は澄んでいて、遠くの校庭まで見渡せる。
でも心は晴れやかではなかった。
青郎の進学先を知ったのだ。
彼はサッカーのために、遠くの高校に進むという。
「……そうか、青郎は、サッカーの未来のためなんだ」
由埜華はそう自分に言い聞かせる。
頭では理解していても、胸の奥ではぽっかり穴が開いたような喪失感が広がる。
「青郎と、これからも一緒にいられるのかな」
その不安が、勉強する手を鈍らせる。
ある日の理科の授業中、二人は教室の後ろの席に座っていた。
授業は静かで、先生が黒板に数式を書き連ねる。
しかし由埜華の心は別のことに集中していた。
「青郎、ちょっとだけ、面接練習しようか」
小声で言い、机を少しずつ傾けて、誰にも聞かれないように練習を始める。
「えーと、志望理由は……」「由埜華、もう少し抑えて話してみて」
二人だけの小さな声と、ペンのカチカチという音だけが教室に残る。
由埜華は青郎の横顔をちらりと見る。
集中している彼の眉間に少し皺が寄る。
その姿を見ると、胸が締め付けられるように痛くなる。
「遠くに行ってしまうんだ……でも、応援したい」
その矛盾した気持ちを、由埜華は必死に抑えた。
放課後、図書室で勉強する二人。
机の上には参考書や問題集が広がるが、二人の手は自然に重なっていることもある。
互いを見守るように手を添え、分からない問題を教え合う。
その温もりが、どれほど安心できるか、由埜華は心で噛みしめた。
「青郎、受験頑張ろうね」
「由埜華もな。二人で乗り越えよう」
言葉は短いけれど、心は互いをしっかり結びつけていた。
遠くに離れることへの不安も、少しだけ和らぐ。
それでも夜、自室で一人になると、寂しさが押し寄せる。
「青郎がいない高校生活……私、大丈夫かな」
年末が近づくと、二人の会話も少しだけ慎重になる。
LINEや休み時間でのやり取りは、相手を傷つけないよう、気遣いで満ちている。
それでも、短いメッセージ一つでも心が温かくなるのを感じる。
冬休み前の最後の授業日。
由埜華は青郎と教室で並び、静かに手を握った。
「遠くに行っても……」
「うん、忘れない。俺たちは大丈夫」
二人の目が合い、言葉にしなくても伝わる信頼と絆。
それは、夏の秘密の約束、冬の机の下での手繋ぎ、そして修学旅行の甘い時間を経て積み重なったものだった。
窓の外には、冬の柔らかい夕陽が差し込む。
教室の中の空気は、受験勉強の緊張感と、二人だけの甘く切ない空気が混ざり合う。
由埜華は心の奥で静かに決意する。
「青郎のこと、ずっと応援する。どんなに離れても、この気持ちは変わらない」
こうして、中学3年の冬、二人の恋は遠距離への不安と覚悟を抱えながら、静かに次のステージへと進んでいった。



