「お、重い…」
先生から渡された紙袋は想像以上に重かった。
今は四限目が終わった後のお昼休み。理科の先生に頼まれて、紙袋を理科準備室まで運んでいる最中。
私は何とか両手で抱え上げたものの、すぐによろけてしまう。
(でも、引き受けた以上は頑張らないと!)
気合いを入れて少しずつ歩き出した。
だけどフラフラしていたら、不意に何かにつまずいて―――
「ひっ…!」
転ぶっ!と思った瞬間、体がふわりと軽くなった。
「何してるの?」
後ろから唐突に、耳に心地良い高音の声が聞こえた。
咄嗟に振り返ろうとしたら……すぐそばのガラス窓に康親様の腕にすっぽりおさまる自分の姿が写ってビックリ!!
(え、えっ…何で?)
訳が分からない私はプチパニック。
「怪我とかしてない?」
「え、うん」
心臓は大丈夫じゃないけど!
驚き過ぎて声まで裏返ってしまったし、体はカチコチに固まっている。
康親様はニッと悪巧みをする時の笑みを浮かべ、私を抱えたまま窓辺に足をかける。
………え?
そして、トンっと空を飛んだ。
ばさっと燃えるような朱の羽をはためかせ、飛んでいる。……私を抱えたまま。
風が頬をかすめ、目の前の景色がぐんぐん小さくなっていく。
校庭、校舎の屋根、遠くの街並みまで一気に見渡せて―――私は言葉を失った。
「わ、わぁぁぁぁ!?ちょ、ちょっと待ってぇ!?」
「大丈夫、落とさないよ」
康親様はあくまで涼しい顔。まるで日常の延長みたいに軽く言う。
「いやいや!そういう問題じゃ――うわぁぁぁ!」
強い風にスカートがばたついて、思わず腕にしがみついた。
康親様は少しだけ口の端を上げる。
「しっかり掴まっててね〜」
「もう掴まってるよ!?」
多分、私達の姿は他の人達には視えていないと思うけど、めっちゃ怖い。
私の悲鳴も、風の音に掻き消される。
けれど康親様はまるで風そのものみたいに軽やかに笑って、朱の羽を大きく広げた。
「ほら、見てよ。上からの景色、悪くないでしょ?」
「悪くないけど、急なの!ひとこと言ってから飛んでよ!!」
「僕、天音たんがどんな顔するか見たかったんだよね〜」
「おい!」
返す言葉が見つからない。
視界いっぱいに広がるのは、教室の窓よりずっと遠く、澄んだ青。
「ここに置いておけば良いんだよね?」
理科準備室に着いた康親様は紙袋を机の上に置くと、「ふぅ〜」と短く息をはいた。
紙袋、重かったもんね……。
「これどうしたら良いの?本棚に入れとく?」
「……あ!そうだった!!」
康親様に言われ、ハッとする。
「早くしないとね〜」
紙袋から本を取り出した康親様は黙々と並べ始める。
私も慌てて本を手に取ると、反対側から並べていった。
―――そして、昼休みが終わる五分前。
「そっちは終わりそう?」
「う〜ん、あとちょっと」
最後の本を手に取った私は、本棚の前で精一杯背伸びをした。
(この本の作者さんは上の作者さんと同じだから……)
揃えておいた方が良いよね。
「ん〜〜〜っ」
百五十センチの私じゃ身長が足らなくて、後ちょっとで届かない。
そんなことで私が四苦八苦していたら―――
「全然届かないじゃーん」
康親様が笑ってきた。すごいムカつく…!
背後から手が伸びてきて、ヒョイっと手の中の本が奪われた。
そのままあっさりと、上の棚になおしてくれる。
身長高いの羨ましい……。
「よし、これで全部―――」
ところがその時、事件が起きた。
康親様のシャツの袖が、本棚から飛び出していたファイルに引っかかってしまった。
「きゃっ!」
「うわっ!」
ドサドサドサ!反動で本棚が揺れて、上から本が落ちてきた。
(あ…あれ?)
でも、本が当たった痛みはない。
その代わり、背中は温かくて……。すぐ後ろに、康親様を感じた。
「天音たん、大丈夫!?」
「大丈夫。ありがと…」
「良かった〜」
康親様は私に回していた手をどかし、本を拾い始めて棚に戻す。
―――キーンコーンカーンコーン。
次の瞬間、昼休み終了を告げるチャイムが鳴って、会話は終了。
先生から渡された紙袋は想像以上に重かった。
今は四限目が終わった後のお昼休み。理科の先生に頼まれて、紙袋を理科準備室まで運んでいる最中。
私は何とか両手で抱え上げたものの、すぐによろけてしまう。
(でも、引き受けた以上は頑張らないと!)
気合いを入れて少しずつ歩き出した。
だけどフラフラしていたら、不意に何かにつまずいて―――
「ひっ…!」
転ぶっ!と思った瞬間、体がふわりと軽くなった。
「何してるの?」
後ろから唐突に、耳に心地良い高音の声が聞こえた。
咄嗟に振り返ろうとしたら……すぐそばのガラス窓に康親様の腕にすっぽりおさまる自分の姿が写ってビックリ!!
(え、えっ…何で?)
訳が分からない私はプチパニック。
「怪我とかしてない?」
「え、うん」
心臓は大丈夫じゃないけど!
驚き過ぎて声まで裏返ってしまったし、体はカチコチに固まっている。
康親様はニッと悪巧みをする時の笑みを浮かべ、私を抱えたまま窓辺に足をかける。
………え?
そして、トンっと空を飛んだ。
ばさっと燃えるような朱の羽をはためかせ、飛んでいる。……私を抱えたまま。
風が頬をかすめ、目の前の景色がぐんぐん小さくなっていく。
校庭、校舎の屋根、遠くの街並みまで一気に見渡せて―――私は言葉を失った。
「わ、わぁぁぁぁ!?ちょ、ちょっと待ってぇ!?」
「大丈夫、落とさないよ」
康親様はあくまで涼しい顔。まるで日常の延長みたいに軽く言う。
「いやいや!そういう問題じゃ――うわぁぁぁ!」
強い風にスカートがばたついて、思わず腕にしがみついた。
康親様は少しだけ口の端を上げる。
「しっかり掴まっててね〜」
「もう掴まってるよ!?」
多分、私達の姿は他の人達には視えていないと思うけど、めっちゃ怖い。
私の悲鳴も、風の音に掻き消される。
けれど康親様はまるで風そのものみたいに軽やかに笑って、朱の羽を大きく広げた。
「ほら、見てよ。上からの景色、悪くないでしょ?」
「悪くないけど、急なの!ひとこと言ってから飛んでよ!!」
「僕、天音たんがどんな顔するか見たかったんだよね〜」
「おい!」
返す言葉が見つからない。
視界いっぱいに広がるのは、教室の窓よりずっと遠く、澄んだ青。
「ここに置いておけば良いんだよね?」
理科準備室に着いた康親様は紙袋を机の上に置くと、「ふぅ〜」と短く息をはいた。
紙袋、重かったもんね……。
「これどうしたら良いの?本棚に入れとく?」
「……あ!そうだった!!」
康親様に言われ、ハッとする。
「早くしないとね〜」
紙袋から本を取り出した康親様は黙々と並べ始める。
私も慌てて本を手に取ると、反対側から並べていった。
―――そして、昼休みが終わる五分前。
「そっちは終わりそう?」
「う〜ん、あとちょっと」
最後の本を手に取った私は、本棚の前で精一杯背伸びをした。
(この本の作者さんは上の作者さんと同じだから……)
揃えておいた方が良いよね。
「ん〜〜〜っ」
百五十センチの私じゃ身長が足らなくて、後ちょっとで届かない。
そんなことで私が四苦八苦していたら―――
「全然届かないじゃーん」
康親様が笑ってきた。すごいムカつく…!
背後から手が伸びてきて、ヒョイっと手の中の本が奪われた。
そのままあっさりと、上の棚になおしてくれる。
身長高いの羨ましい……。
「よし、これで全部―――」
ところがその時、事件が起きた。
康親様のシャツの袖が、本棚から飛び出していたファイルに引っかかってしまった。
「きゃっ!」
「うわっ!」
ドサドサドサ!反動で本棚が揺れて、上から本が落ちてきた。
(あ…あれ?)
でも、本が当たった痛みはない。
その代わり、背中は温かくて……。すぐ後ろに、康親様を感じた。
「天音たん、大丈夫!?」
「大丈夫。ありがと…」
「良かった〜」
康親様は私に回していた手をどかし、本を拾い始めて棚に戻す。
―――キーンコーンカーンコーン。
次の瞬間、昼休み終了を告げるチャイムが鳴って、会話は終了。



