それから数日後。
「それでは以上を持ちまして、遠足のグループを決定します」
学級委員長のかけ声と共に、ホームルーム終了のチャイムが鳴る。
すると、さっそく真央が後ろを振り返って私を見た。
「良かったね〜!一緒の班になれて!!」
「うん!本当に良かったよ」
そう。今ちょうど、来月に予定している遠足のグループ決めを行ったんだけど、無事に真央と同じグループになれたんだ。
これでもう一安心、だったんだけど。
「てか、康親くんと同じグループってヤバくない?」
「う、うん」
何故か康親様も同じグループになったんだよね。
(一気に不安要素が高まる……)
でも、あんまり仲良くない男子と一緒のグループになるよりは、康親様と一緒の方が気も使わないし、きっと楽しいよね。
周りの女子達の視線はちょっと気になるけど……。
「天音たーん!同じグループだね〜!!」
前言撤回。
別のグループの方が良かった。
「あ、お金貸して〜」
私の鞄からスっとお金を抜き取る康親様の腕を掴む。
「人のお金盗まないで?」
「あ、バレた?」
「焼き鳥か唐揚げ、どっちが良い?」
「やっべ、逃げないと」
わざとらしく康親様が言う。
「ちょっと待って!逃げるな!」
私は慌てて立ち上がって康親様を追いかけた。
すると、教室のあちこちからひそひそとした声が聞こえてくる。
―――あの二人、やっぱ仲良いよね。
―――天音ちゃんって、康親くんのこと好きなんじゃない?
そんな声は、私の耳には届かなかった。

康親様を追いかけて教室を出ると、廊下はもう薄暗くなっていた。
真央は部活に呼ばれて、他のみんなもそれぞれ帰っていったから、気が付けば康親様と二人きりになっている。
「……あ、そうそう。今日、狭霧ちゃんが天神会に呼ばれてるんだよね〜」
「え、天神会?何で?」
「何か、隠り世にいる邪鬼(じゃき)の数が減ってるんだって」
邪鬼とは、隠り世に生息しているこの世に未練を残した魂。
生きている人間を襲うこともあるので、隠り世から出られないように桃源局(とうげんきょく)が管理しているんだと。
「へ〜…珍しいこともあるんだね。もしかして成仏したのかな?」
私がぽつりと言うと、康親様はポケットに手を突っ込み、含みのある笑みを浮かべた。
「ま、成仏より面倒くさいことが起こるけどね」
「面倒くさいこと?」
私が首を傾げると、康親様はゆるく肩をすくめた。
「邪鬼が減るってことは、現し世に降りてる可能性が高いよね〜」
「あー……」
「ま、あくまで僕の推測だけど。普通、あいつらが自然にいなくなるなんてありえないからさ〜」
康親様は軽く笑ったけど、その笑みの奥に、ほんの一瞬だけ冷たい光が宿った気がした。
「ま、天神会が動くなら、僕達もいずれ呼ばれるかもね」
「……康親様」
「ん?」
「もし、その“面倒くさいこと”が本当に起こったら、どうするの?」
康親様は少し間を置いて、笑って答えた。
「適度にサボりつつ、働かないとね!」
「……一番面倒くさがりなのに」
「そういう時だけ頑張るの!あと、天神会の奴らからお金盗んだのバレてさ〜、出雲(いずも)出禁になったんだよね!」
「はぁ!?…ちなみに何円?」
康親様は指を折り曲げて数え始めた。
「ひーふーみー……ざっと二十万くらい?」
「うわっ……」
まー、でも康親様が祀られている神社があるのは京都だから大丈夫か。
(それにしても出雲出禁って…)